第C&ⅩⅢ話:出会ってから知る事の大切さ。
「しかし、何を話すというのだ?」
ショッピングモールで思わぬ再会を果たした征樹だったのだが・・・。
「特に。」
「何だ、考えておらぬのか?」
肩透かしをくらった形になったキルシェは、呆れを通り越して言葉も出ない。
「色々と、近くにいて、見て、話をしたいってくれいしか・・・。」
これを何と表現をしたらいいのやら。
「なんだ、それはやくたいもない話だな、まるで・・・。」
「まるで?」
(プロポーズみたいではないか。)
言いよどむキルシェの顔は、ほんのり赤みを帯びている。
「うるさい!なんでもない!」
「?」
全くよく解らない反応に疑問符しか浮かばない征樹。
しかし、征樹自身も酷く曖昧な自分の言葉に戸惑っていた。
自分の事なのに、突っ込みを入れたい気分。
会えば、話せば、もっとぱぁっと視界が開けるような変化、少なくともそのきっかけが掴めるかと、多少思っていた節があったからだ。
(他人任せは良くないよな、うん。)
少し反省。
「まぁ、確かにこんな人通りが多くて騒がしい所では、神妙な話もできんか・・・。」
征樹の主張とはちょっと違うが、一理ある。
「全く世話が焼けるヤツめ。」
口では呆れている、或いは怒っているようなキルシェだったが、その表情はむしろ微笑んでいるようにも見える。
そのキルシェは、溜め息をつきながらも持っていたハンドバックからメモ帳とペンを取り出し、なにやらスラスラと書いてゆく。
「連絡先を教えておく、携帯の番号だ。」
メモ長のページを乱暴に破り、征樹に押し付けるように渡す。
「何時でもかけて来るがいい。出られなかったら、留守電にでも入れておけばよい。」
「えと・・・。」
「どうした?」
メモ帳に書かれた数字の羅列を眺めながら、征樹は相手の表情を伺う。
「僕、携帯持ってなくて・・・。」
別に家からかけても良いのだが、以前ならまだしも、今は誰かしらの人がいる場合が多い。
「あぁ、家電からかけろ。お前のお悩み相談はちゃんと直接会って聞いてやるから。」
わざわざご丁寧な、と征樹は思うが、全て自分の為になるのだがら、反論の余地はない。
「征樹~。」 「葵くん、お待たせしました。」
どう返事をしたらいいのか迷っているうちに買い物に行っていた杏奈と奏が戻って来る。
そこでようやく自分が彼女達と買い物に来ている事を思い出した。
「と、連れがいたか。まぁ、気軽に連絡してくるとよい。」
トントンと征樹の胸辺りを小さな手でノックすると、海の時と同じようにその身を翻し、颯爽とキルシェは去って行った。
「また・・・別れの挨拶も出来なかった・・・。」
だが、今回は前回と違う。
征樹の手の中には彼女との縁がまだ残っている。
「今の誰?」
征樹の元へ駆け寄って来た杏奈は問う。
「お知り合いですか?」
後から来た奏も同じように。
(お知り合い・・・。)
二人の少女達は、征樹の知り合いらしき人物を不思議に、そして疑問に思っているのは間違いない。
「・・・これから知り合っていく人だよ。」
少々考えた末に征樹はそう答えた。
征樹はまだ彼女の外見と、からかわれたのでなければ名前と連絡先しか知らない。
知るとしたら、これからなのだと。
「なんだそりゃ。」 「?」
去って行くキルシェの背を眺める征樹。
そんな征樹の横顔を杏奈と奏は、不思議そうに訝しげに見つめた。
「さ、僕達も行こうか。」
二人にそう笑いかけると、征樹は手に持った紙を丁寧に折って、服のポケットにしまった。