第C&ⅩⅡ話:引き寄せられる縁は意外と少ない。
何か勝手が違う。
人と関わろうとする自分と、関わりたくない自分が鬩ぎあっている。
面倒、疲れる、悪くない、楽しい、温かい。
一体、何のどれをチョイスするのが妥当なのか。
征樹にとってはあまりにも高度過ぎる。
「まぁ・・・参ったな。」
きっと他の人は、自分のように悩んだりなどはしないのだろうなと、征樹は溜め息をつく。
「また悩み事か?全くオマエは物事をややこしく考え過ぎなのだ。」
上から目線で自分を"オマエ"と呼ぶ声に、勢いよく征樹は振り返る。
「頭が堅過ぎだ。」
振り返った先の視線よりも大分下。
胸を張る小さな少女。
「あ、あ・・・。」
忘れられないきっかけをくれた、あの少女。
「なんだ?その顔は。お化けではないぞ?生憎、足もちゃんとついておる。」
白い丸襟のついた黄色いワンピースの裾から、白いミュール履きの生足を征樹の前にずぃっと見せ付ける。
「大体だな、オマエは・・・。」 「いや、今はそうでも・・・って、その帽子・・・。」
「ん?あぁ、コレか?」
ニヤリと笑う少女の頭には、白い麦わら帽子が乗っかっている。
旅行の日、海で征樹に渡され、彼女とは逆のノッポな少女に渡したあの帽子と全く同一に思える物が、だ。
「同じ物を沢山持っている・・・とか?」
「たわけ。これが縁というヤツだ。」
縁。
それが征樹が教えてもらった概念。
「でも、会えて良かった。」
「ん?」
「会いたかったから・・・。」
会いたかった。
自分が誰かにそういう想いを強く抱く事があるとは・・・。
「何だ、"また"ナンパか?」
「違う。第一、一度もナンパした覚えはない。」
というより、征樹は見ず知らずの人間に声をかけたりする事が出来ないタイプだ。
「その、お礼が言いたくて・・・。」
「何だ?礼なぞいらん。私が何を言ったとて、オマエが自分で考え選んだ事には変わりないからな。」
「そうかも知れないけど、どうしても言いたくて・・・話したくて・・・。」
「・・・やっぱり新手のナンパか?」
こうまで言われると、彼女はナンパをして欲しいのだろうかと思えてくる。
どう考えても拘っているとしか思えない。
「僕は、あなたの名前も知らないから。」
「そう言えばそうだな。ふむ、知りたいのなら、最初からそう言えばよかろう。キルシェだ。キルシェ・オーランド。」
(日本の人じゃなかった?)
キルシェの言葉遣いは、年若い日本人女性としては、少々年寄りくさい。
それに僅かだが、頭髪に銀色が混ざっていたのを征樹は思い出していた。
「え、と・・・。」
名前を聞いて、征樹は彼女をなんと呼んだらいいのか迷っていた。
それくらい今の二人の関係というのは不可思議で・・・。
縁という言葉で片付けていたから、あまりそこまで考えていなかったのだ。
「オーランドさん。」
「面倒な。キルシェでいいぞ。"さん"付けも好きではない。」
"偉そうだけれど礼儀正しい人"という、以前に征樹が抱いた印象は、本当にイイ線をいっている。
「キルシェ・・・あの、あの時はありがとう。あれから一歩・・・半歩くらい進めた気がしたから。それで、もっと話してみたいと思ったんだ。」
自分でも本当に、本当に驚くくらい。
「そんなに褒めても、何も出んからな!」
そう言うキルシェは照れているようにも思える。
「うん。」
だが、額面通りにそれを受け取った征樹は、微笑みながら頷いた。
「・・・・・・何も出んぞ?」
再確認。
「うん。あ、でも、話はしたい。」
本当に今日の自分はどうしてしまったのだろう。
こんなに積極的に、かつ前向きになるなんて。
訳が解らないのが、征樹の正直なトコロ。
でも、もし、彼女と一緒に話す事が出来たら・・・・きっと自分にプラスになる。
何かに生かせる。
それは、もっと自分が"らしく"なるのではないかと征樹は思うのだった。
翌日更新アリマス。