第C&Ⅹ話:ナッツなあのコにパイナップル。
「アタシはカシューナッツ派だなぁ。」
「聞いてない。大体、なんでいる?しかも、夕飯時に。」
征樹は目の前に座っている杏奈をジト目で見つめる。
「すみません、すみませんっ。でも、その、私はパイナップル派です。」
「奏先輩まで・・・。」
奏にまで乗られたら、反論のしようがない。
「でも、パイナップルの成分は、お肉を柔らかくする作用があって・・・。」
「一つ。利口になったな、杏奈。」
「う・・・。」
オマエは何かトリビア的なものはないのか?と征樹に無言の圧力をかけられているような気が杏奈はしてくる。
「実はね・・・。」 「さ、夕飯にしよう。」
口を開いた杏奈を完全にスルーして、征樹は箸を持つ。
「えーっ。」
「いただきます。」
「どうぞ。」
このやりとりも、食事時に他に人がいるのも多くなった。
今じゃ一人で食べる事はほとんど皆無だ。
そう思う征樹。
未だに不思議な気持ちになるが、悪くないと思っているのも事実だ。
「で、何の用だったの?」
仕方なく杏奈の用件を聞く征樹。
「あー、うん・・・。」
歯切れが悪い。
珍しい現象だ。
「・・・宿題は見せないよ?」
「そうじゃなくて!アタシとね・・・。」
「あ、あのっ、私と・・・。」
「ん?」
何故か奏まで声を上げる。
「「デートしてッ!」」
「ブッ?!」
見事に奏と杏奈がハモったところで、静流は飲んでいたスープを噴き出しそうになった。
「意味不明。」
言われた当の征樹はというと、至って冷静だった。
また変なモノに杏奈が影響、もしくは洗脳され、その余波が奏にまで及んだのかと、すぐさま征樹はアタリをつけてみる。
ほとんど杏奈を伝染病扱いだ。
「大体なんで?」
脈絡もないのだ、そういう質問をするのも無理もない。
「だ、Wデートですっ!」
「いや、ソレ意味違うから・・・。」
「あぅ・・・。」
奇妙な鳴き声(?)を上げて撃沈する奏。
「たいして変わんないかな、アタシと奏先輩と征樹の3人でデート。」
「ど・・・。」
どういう風の吹き回しだと突っ込もうとして征樹は止まる。
「・・・そういう事があってもいいか。」
「え?」 「マジ?」
二人が考えてそうしたいと思い、自分を誘ったのだろう。
それを一言で切り捨てるのもどうだろうかと・・・。
「冗談だったの?なら、別にいいけど。」
「いやいやいや!本気!」
「はい、本気です!」
(冗談でも構わなかったんだけど・・・。)
本当に酷い話だ。
「んじゃんじゃ、早速何処行くか決めよーっ!」
「あー・・・夕飯食べ終わってから。今日は残したくないし。」
わざわざ静流が、自分の状態を慮って、しかも自分のリクエスト通りの料理を作って出してくれたのだ。
それを蔑ろにする程、征樹は礼儀を知らないわけじゃない。
当然に十二分美味しい一品だった。
「征樹くん・・・。」
事の成り行きを唖然として固まっていた静流が、征樹の言葉でようやく動き始める。
「美味しいですね、これ。」
そう静流に微笑むと、目の前の酢豚を自分の取り皿に更に盛る。
「いただきまーす。」
「いただきます。」
征樹の行動を見て、奏と杏奈も酢豚を更に取って食べ始める。
その様子に対して、満足そうに征樹は微笑む。
「あぁ、そうそう、僕はカシューナッツもパイナップルも入れない派だから。」
これは自分の注文なんだと、釘を刺すのも忘れない。
「奏先輩、何してるの?」
思わず杏奈が奏に問いかける。
「え?あ、メモ・・・です。」
気づくと奏がメモを手に何やら書き込んでいるではないか。
「えっと・・・その、葵くんの好みだから、メモしておこうと思って・・・。」
(エスカレートしてる?!)
「して・・・どうすんの?」
「研究します。」
「あ、そう・・・。」
はっきりと答える奏に軽く引く杏奈。
ふと、そういえば、何時の間にか、杏奈の奏に対する口調が随分と砕けたもののようになっている事に征樹は気づく。
もっとも突っ込みの時だけかも知れないが。
(とりあえず・・・酢豚もっと食べよう・・・。)
ちなみに私は、どちらが入っていても食べられます。
入ってなくても食べます、食べたいです(イミフ)