第C&Ⅵ話:その先の道はどうやって決めるか否か。
「待たせたの。ん?どうかしたかね?」
鈴村と征樹の間で、微妙な空気を作り出していた頃、いいタイミング(?)で、竜木が入ってきた。
「いえ、特には。」
「はい、凄いお屋敷だって。」
突っ込まないのは男の情けだ。
「はっは、凄いといってもな、ここはちょっとした施設の一部なんじゃよ。」
「施設?」
屋敷の敷地は、この老人一人で住んでいるとしたら、広大過ぎる程ではある。
「元々、ここは学校とその寮だったんじゃ。」
「学校?」
それくらいの広さは確かにありそうだと征樹は思う。
「バブル期の崩壊とともに立ち行かなくなった学校の敷地を買い取りまして、以降、私立の教育機関として使用しております。ちなみにここは理事長室兼自宅として使用しております。」
「つまり・・・竜木さんは、学校の理事長さん?」
敷地を学校として使っているとしても、この規模の土地を取得出来るわけだから、資産家には違いない。
「ん。まぁ、小さい規模じゃがな。生徒も訳アリが100名前後しかおらん。」
訳アリ。
その言葉が妙に征樹には引っかかる。
「随分、生徒数が少ないですね?」
「道楽じゃからのォ。」
(道楽で教育機関運営って、問題あるんじゃ・・・。)
今日、何度目かの渋い表情。
「道楽でやるものではないと思いますがね。」
征樹が思っていた事をあっさりと鈴村が突っ込む。
この人は竜木さんに仕えているのにこんな風な物言いをして大丈夫なのだろうか?と疑問符がつく。
「経営は健全じゃぞ?」
「経営だけかよ、クソジジィ。」
「毒舌じゃな。」 (毒舌だ。)
鈴村氏に毒舌属性があるのを発見した瞬間であった。
「少人数制の学校かぁ。」
「気になるかの?」
「一応、来年は受験生なもので・・・。」
そういえば、自分は進路を何も考えていなかった。
というより、考えた事がなかった。
漠然としているというのもあるが、人間、何時どうなるか解らないという想いが強い。
自分の母がそうだったように、あっけなく未来は閉ざされる。
ただ、なんとなく進学はするんだろうなとは思ってもいる。
通常の進学にしろ、専門的な知識・技術を身につけるにしろ。
「考えなきゃ・・・いけないかな。」
そう再確認する。
「興味がおありなら、ご案内致しましょうか?」
「・・・鈴村君、理事は私なんだが・・・。」
鈴村の申し出に対して、苦笑する竜木。
本当にこの人物は彼に雇われているのだろうか、甚だ疑問である。
「あ、でも・・・お茶・・・。」
ここに来た当初の目的は、竜木にお茶に誘われたのであって、律儀な征樹はそれを反故にしてまで・・・と考えてしまう。
興味があるかないかと問われたら、前者ではあるのだが。
「ほっほ。構わんよ、お茶は君と話すついでじゃからの。見学に行きたければ行くと良い。そっちの方が君の為になりそうじゃ。」
「本当ですか?」
うむ。と頷く竜木。
そして徐に人を呼ぶ。
「一旦、家の者が屋敷の玄関まで案内する。その後は、鈴村君頼むぞ。」
「畏まりました。」
深々と頭を下げる鈴村の横から、また別の人物が征樹を案内する為に現れ、征樹を促す。
「私は、準備がありますので。」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・。」
一礼して、征樹は促されるまま部屋を出て行く。
「いいんですか?」
「ん?」
残された鈴村がまず声を上げる。
「なんにせよ、周りに興味を持つ事はいい事だ。」
「どうせ半分はコレが狙いだったんでしょう?」
「半分・・・以上かの。」
「このクソジジィ。」
視線も表情も変えずに再びの毒舌。
「酷い言われようじゃのォ。」
「清音様の息子さんですから。」
「昔から君は彼女のファンだったからなぁ・・・。」
ギロリと竜木を睨む鈴村に、あらぬ方向に視線を逸らしてかわす。
「あの人は・・・。」
「わかったわかった。君のその話は長くなるからなぁ。」
鈴村の態度に辟易とする竜木だった。