第C&Ⅴ話:似てる?似ていない?
(・・・そうだね、こういうパターンも考えられたよね。)
征樹は自分の考えの浅はかさに、また消沈するハメに陥っていた。
「如何しました?」
「いえ、別に。」
車で連れられたのは、大きな庭園(しかも噴水付き!)を擁する、これまた大きなお屋敷だった。
瀬戸の会員制クラブがどれ程高級かは知らないが、このパターンは旅行でも一度体験したはずなのに。
当然、その流れで上客である竜木もそういう事になるのは、想定内の事。
(もしかして、部屋の家賃、相当マケてもらってるんじゃ・・・。)
琴音の夫も瀬戸のクラブへ来ているくらいだ、実は自分の住んでいるマンションも高級だったりするのでは?
一応、父親の職業も弁護士なのだから。
車を降りて屋敷を案内されている間、そんな事ばかりを考えて、結論として、今度それとなく琴音に聞いてみようというところで落ち着いたのだった。
「どうぞ。」
部屋にスーツを着た人物に案内され、近くの椅子に座る征樹。
竜木は一度別室に行ってから来るらしい。
「・・・あの、なにか?」
気づくと、自分を案内した人物がじっと見つめたまま、部屋の扉の前に立っている。
項を覆うくらい後ろ髪が長く、顔は細く鋭い目、薄い唇で、ほっそりとして高身長。
(マッチ棒みたい。)
線の細さに征樹が抱いた印象は、相変わらずの失礼さだ。
「いえ、"知り合い"にそっくりだったもので。」
「知り合い?」
「何処というワケでなくですね・・・その・・・。」
「はぁ。」
なにやら本人にも説明がつかない様子にみえる。
しかし、最近似ていると言われるのが多いなと征樹は考えて、なんとなくその名を口にしてみた。
「えと、まさか"清音"とかいう人じゃ?」
「清音様をご存知で?」
額の左からきっちりりと右側に一方向に揃えられた髪が揺れる。
「・・・・・・"一応"母です。」
何故だか、一応と付けてしまう征樹。
それくらい、彼の中には母の記憶は薄れていて・・・。
「成る程、それで・・・。」
"似ている"という言葉が続くのだろう。
「そんなに似てますか?」
「はい、雰囲気が一番似ていますが、理知的で優しげな瞳が特に。」
そうだったのか・・・今更ながらに思う。
言われたところで、母を思い出すのが辛く、薄れかけている征樹は、特別な感慨は浮かばなかった。
そういうものかと思うくらい。
「あの母とは何処で?」
目の前の人物は、そこそこ若いように見える。
母の世代とは違うはずだ。
では、一体、接点は何だろう?
「はい、昔、私が・・・なんと申しましょうか、やんちゃだった頃によく勉学等、面倒を見て頂きました。と、もう・・・20年近く前の事でしょうか。」
自分の年齢からかんがみて、計算的にはそんなところだろう。
「そうなんですか・・・あれ?」
少し気になる・・・いや、かなり気になる事が征樹にはある。
しかも、聞かずにはいられない。
「というコトは・・・瀬戸さんとも知り合いだったり・・・?」
瀬戸は母の幼馴染なのだから、出会っている確率は高いはずだ。
「せ・・・と・・・。」
「?」
そういえば、瀬戸というのは源氏名というヤツで本名は違ったりするのだろうか?
そんな事を耳にした事はなかった気がしたのだが、征樹は一瞬首を傾げる。
しかし、目の前の人物の様子が少々おかしな事にそこで気づく。
「せ、せ・・・瀬戸・・・あの"クソ野郎"と知り合いですって?」
完全に目が据わっている。
「あ、もう"野郎"ではないですね、"クソババァ"でしたか。」
(クソの部分は変わらないんだ・・・。)
そういう問題ではない。
征樹はそう突っ込みたかった。
「失礼、少々・・・取り乱してしまいまして。」
「少々・・・。」
はっきりと解り易かった気がするが、すぐに平常(?)に戻った様子だったので、征樹はそれ以上は口にしない事にした。
「と、言う事にしておいて下さい。」
とりあえず、基本的には物腰柔らかな人で、いい人かも知れないとの印象を征樹は持つ。
「私、鈴村と申します。以後、お見知りおきを。」
竜気が迎えを呼ぶ際に呼んでいた人物名だと、すぐに気づく。
どうやら、あの時の電話の相手がこの人物のようだ。
「よろしくお願いします。」
そう述べて、一体、何をお願いするのだろうと思った征樹だった。
やべぇ、また新キャラ出しちゃったよ・・・(汗)