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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第漆縁:新たな道を模索してみたら・・・・・・?
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第C&Ⅳ話:たぐり寄せられない縁もある。

「あ。」


 ぽつりと声を上げたのは、既に車に揺られてからだった。

突然に声を上げた征樹にミラー越しに運転手である中年の男が、チラリとこちらを見たがすぐに運転に集中する。


「どうしたのかね?」


 車の後部座席、征樹の隣に座る老人が聞き返してくるのを見ながら・・・。


「いや、迂闊だったかなって。」


「迂闊?」


 征樹はようやく冷静に戻って、今の現状で考えた事を口に。


「いくら瀬戸さんの所が会員制で、身元がはっきりしているからって、出会って間もない人の車に無警戒で乗るなんて・・・。」


 普通にヌケている。

飴をやるからとホイホイついて行く子供じゃあるまいし、と征樹は軽く落ち込んでいた。


「ふむ、確かに。ママに連絡するかね?」


「いえ・・・。」


「そうか。しかし、ママに聞けば身元がしかと判るなら、いいのではないかね?」


「・・・さっきの男性も同じ会員だったし・・・。」


「ほ?」


 目をぱちぱちと瞬かせ、征樹を見る老人。

別にこの老人が、同じ様に征樹に危害を加えると思っているわけではない。

ただ心構えとして、どうかと思うという話である。


「こりゃ、また、確かにその通りじゃな。ふむ、儂は"竜木たつき"と言ってな、そりゃもうずっと昔からママの友人なんじゃ。」


「昔から?」


 昔の瀬戸・・・征樹には全く想像出来ない。

第一、どれ程の昔なのだろうか?

あまり昔過ぎると、"男性の格好"をしていたりするはずだ。


(・・・益々、複雑過ぎて混乱する。)


「君の母君とも知り合いだったぞ?」


 そういえば、以前、母親似と言われたのを思い出す。

となると、やはり相当前、父や母、瀬戸が学生時代くらいから知っているのだろうか?

益々想像し難い。


「なんというか・・・謎がナゾを呼んで、何が謎やら・・・。」


「まぁ、それはまた後で話すとして、先程の状況を話してもらえるかの?」


 逆に言えば、話せば、母達の話をしてもらえるのだろうか?と征樹は考える。


「知り合いの・・・僕が"姉"と慕っている人の旦那さんです・・・。」


 半ば強制的にそういう設定になったのだが、一番簡潔な説明だとこうなる。


「それが何故、あんな事に?」


「さぁ?」


 自分自身の事だって解るはずがないのだから、答えようもない。

しかし、征樹にとって正直、そんな事はどうでもいい事だった。

それを知ったところで、自分はどうせ何も出来ないだろう。

自分が子供だというのは、もうきちんと自覚できている。


「それとさっき避けなかった事とは、繋がりがあるのかね?」


 更に竜木が問う。

その表情は、征樹の答え・反応、その全てを楽しんでいるようにも見える。


「いいかなって・・・。」


「?」


「なんだろう・・・あの人の行為が、琴姉ぇじゃなくて、僕に向いて良かったなって・・・僕に向くって事は、心の何処かでまだ琴姉ぇの事を想ってるんじゃないかって・・・。」


 だから、"愛している琴音"を傷つけるという事は出来ない。

全ては征樹の想像でしかないが、征樹はそう思いたかった。


「そう思ったら・・・いいかなって・・・。」


 そうでなかったとしても・・・。


「琴姉ぇにそれが向かうよりは、多分・・・遥かに。」


 それで相手の人間の気がすむというのなら、自分が受けた方がいい。

誰が大事か、優先かは、征樹にははっきりとした事だった。

どちらかと言えば、最初の、心の何処かでという説を取りたい征樹ではあったけれど。


「君は母親似だのォ、本当に。」


 征樹の言葉を最後まで遮る事なく聞き続けた竜木が、ようやく口を開く。


「それで、彼をどうする?」


 竜木が言いたいのは、然るべき所に出すとか、そういう類いの事を言っているのだと、少なくとも征樹はそう受け取った。


「・・・どうも・・・。」


「どうも?」


「どうもしないです。あの人ともう一度会うかどうかも、竜木さんと出会ったのと同じで、縁だと思うから。縁があるならまた会うかも知れないし、そうじゃないかも知れない。」


「縁か?」


 何故だか、竜木はより一層微笑んでいる気がした。


「なんか、最近、自分の中で流行ブームり・・・なんで・・・。」


「なるほどなぁ・・・いやはや、君は優しいの。」


「そうですか?」


 征樹は苦虫を噛み潰したような渋い表情を作る。


「そんな実感なんて、ないかなぁ・・・。」


 他人に興味を持つ事自体が少ないのだから、実感のしようもない。


「優しい、優しいが、"厳しい優しさ" じゃな。」


「厳しい優しさ?」


 征樹は矛盾しているような気がした。


「さて、着いたぞ。」

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