第C&Ⅲ話:災いは転じて福となるのか?
本年も、作者ともども、宜しくお願い致しますです。
(まさか、あんなになるとは・・・。)
瀬戸の所からの帰宅中、征樹は彼女の所で起きた事件(?)を振り返って苦笑していた。
その後の惨事を見るに忍びないと、征樹は結末を見ずに出てきたのだが。
「でも、お土産喜んでもらえて良かった・・・。」
貰ったお小遣いに比べて、安物なのが心苦しくはあったけれど。
もっともそのお小遣いの大半は返却したので、少しは気持ちが楽になった。
「あとは・・・冬子さんの分か。」
本当に律儀な少年、征樹。
「?」
歩きながらそんな事を考える征樹の視線が止まる。
(あの人・・・?)
何処かで見たような・・・錯覚。
本当に錯覚なら問題はないのだが、もしそうでないなら色々と失礼だ。
しかし、征樹の場合は普通の人より遥かに人の顔と名前を覚えてない方なので、こういう状態は往々にしてよくある事だった。
「・・・が・・・。」
何かをブツブツ呟きながら、こちらに近づいて来るが、何を言ってるのかまでは征樹には聞き取れない。
そのままゆっくりと距離が近づく。
「・・・がいなければ・・・オマエ・・・が・・・。」
一定の距離まで近づいた瞬間、その人物が突然駆け出す。
そうなって、征樹はその人物が誰なのかを思い出していた。
(琴姉ぇの・・・。)
挙動不振な行動に対して反射的に身構えようとする自分を、征樹は無理矢理押さえ込む。
そして、ゆっくりと瞼を閉じた・・・。
彼が何をしたいのかに気づいたから。
-スコォォォーンッ!-
小気味よい乾いた音がして、征樹は何事かと目を開く。
すると、自分の横、こめかみの辺りからにょっきりと生えている黒い棒が視界に入った。
その先端部には銀色の金属キャップのようなものがついていて、征樹の足元には額を押さえた男が尻餅をついた状態で倒れている。
「天下の往来で、何しとる馬鹿者が。」
(この声・・・?)
これもまた何処かで・・・と、征樹は振り返る。
白い髭を口元にたくわえた初老の男性。
「また会ったの若者。」
「あの時のお客さん?」
「縁があるのォ。そっちの男とも。」
そう言って、相手を再び見た時には、もうその男は走り去ろうとしていた。
「あ・・・。」
逃げ出して行く男を呼びとめもせず見送る征樹。
(やっぱり、琴姉ぇの旦那さん・・・。)
「良いのか?」
それは追いかけなくていいのかという意味で。
「えぇ、いいです。」
そう初老の男性に答える征樹。
やっぱり、あの時、瀬戸の店にいて、征樹の失敗分のボトルを入れてくれた男性だった。
「ふむ。余計なコトをしたかの?」
持っていたステッキを下ろし、本来の役目に戻して征樹に問う。
「いえ、そんな事ないです。」
「そうか・・・しかしのォ・・・何故避けようとせなんだ?」
柔らかい物腰の口調の中にズバット切り込むような質問。
「それは・・・。」
それを一言ですぐに説明するには複雑過ぎた。
他人のプライバシーも含まれているし、ここに至るまでも色々あったから。
そのせいで、少し言い澱む形になってしまう征樹。
「助けた礼に一つ、教えてくれんか?」
男性は、自分のスーツのポケットまさぐる。
「何せ、ジジィで暇なんでの。どうじゃ?ちょっとしたお茶にでも付き合ってもらえんか?」
「は、はぁ・・・構わないですけど・・・。」
「ほうかほうか。」
内ポケットから携帯電話を取り出し、何処かへかけ始める。
「おー、鈴村くんか?ちょいと客人とお茶をしようと思ってな。そう、そうだ。瀬戸ママの所の近くの、あー、そだそだ。うむ、済まないね。」
何処かへ通話した後、用件を言うだけ言って、切った電話を再びスーツの内ポケットに収納する。
「さて、すぐに迎えの車が来るからの。」
まさかの伏線回収編?!w