第C&Ⅱ話:旅行から帰りて、鬼が来る・・・。
私の中では、そろそろ中盤を越えた辺りだと・・・思いたいです、はい(汗)
「これを?」 「アタシ達に?」
「はい、お土産です。」
旅行から帰って数日後。
征樹は旅行先で購入した土産を持参して、瀬戸達の所へと来ていた。
「アオイちゃんも律儀ねェ・・・。」
訪問して用件を伝えた開口一番の瀬戸の言葉である。
「皆にお小遣いも貰ったし、最初は皆とも一緒に行こうと思っていたから。」
なんだか、気を遣わせてしまって申し訳ないと思ったくらい。
「最初は食べ物にしようと思ったけれど、それじゃあ残らないから。」
そう述べる征樹の後ろで、きゃいきゃいとこ踊りしている様は、女子学生並みのノリであったが、皆一様に貝殻などで出来たイヤリング・ネックレス等を身につけていた。
「アレくらしか思いつかなかったけれど・・・。」
お土産、ましてや女性に贈るなどした事がない征樹の苦笑を見て、瀬戸は微笑む。
非常に妖艶な笑みだ。
「まぁ、いいんじゃないかしら、あんな馬鹿みたくはしゃいでるしねェ。」
呆れているというより、見下した視線で苦笑している瀬戸。
「あ、瀬戸さんにはコレ。」
「ウチに?」
「うん。」
そう言って、征樹が手渡した通罪には、珊瑚のブローチが入っていた。
「アオイちゃん、ありがとね。」
「いや・・・瀬戸さんには沢山迷惑かけているから・・・。」
全く以って、こんな程度のモノで返せるわけがないと、征樹は認識している。
しかも、彼女達から貰ったお小遣いで購入したものだしと。
「そう。」
「あ、それとこれ・・・。」
「?」
征樹は、瀬戸に白い封筒を渡す。
「なに?」
「あ、えと、残ったお小遣い・・・。」
交通費や宿泊費に多少使ってしまったが、小遣いの大半は手付かずに残っていた。
全部瀬戸から貰ったものではなく、皆から貰ったものの合計だが、それを封筒に入れて返したのである。
「・・・・・・なんというか、本当に律儀よねェ。」
征樹からのお土産に感動したのもの束の間、再び呆れる瀬戸。
しかし、征樹はこういう時、一度言い出したら聞かないくらい頑固なのは知っている。
そういうところだけ親子で似るものだな、と。
「そういう時は、残りは自分のモノにしていいのよォ。」
渋々、封筒を手に取る。
「・・・そういうものなの?」
征樹の素朴な疑問と、その素直さに瀬戸は更に溜め息と同時に、この子は大丈夫だろうかと頭に過る。
将来、誰かの連帯保証人とかになって、騙されたりしないだろうか?
騙されたとしても、騙すよりはマシだとか平気で言ってのけたりしやしないだろうか?
(・・・杞憂ね。法律の知識も親と同じ・・・"ガリ勉"だから。)
もっとも彼の優しさも、"親譲り"だという事は瀬戸も承知しているつもりだ。
「う~ん・・・でも、ちょっとお小遣いとしては多かったから・・・。」
次の征樹の発言で、ピタリと瀬戸が止まる。
「多い?」 「うん。」
はっきり断言する征樹。
「そんなに多かったかしら・・・。」
昨今の子供の金銭事情は、瀬戸も理解しているつもりだ。
お年玉だって、諭吉が10人に達したりする事だってザラにあるという。
しかし、瀬戸だって征樹を甘やかしているわけじゃない。
彼の母親、その死の間際に頼まれ、第三の保護者、いや、父親がアレだから第二の保護者としての自覚もある。
渡した小遣いだって、宿泊費・交通費等の必要経費より多少多いくらいしか渡してない。
「アオイちゃん、倹約家なのねェ・・・?」
あの家庭事情では、金銭感覚だってシビアになるか。
呆れながら封筒の中を覗いて、瀬戸は固まる。
「・・・ナニかしら、コレ?」
「いや、だから、お小遣いの余り。」
封筒の中身、諭吉先生がゆうに15人はいらっしゃるのである。
当然、瀬戸はこんなに渡した覚えは全くない。
あるとしたら・・・。
「・・・・・・アンタ達ぃ~ッ!」
ギロリと瀬戸が睨む先は、征樹の後ろでハイテンションで戯れている者達。
睨まれた方といえば、動きそのものが完全に止まっている。
蛇に睨まれた蛙とはこの事である。
征樹も、自分に対して常に温厚な瀬戸がこんな眼力を以って怒りを顕にする所は、今まで見た事はなかった。
「人が・・・。」
「?」
いつもの瀬戸より低い声。
「甘やかさず、しっかりとした大人に育つように努めているというのに・・・。」
今の瀬戸に似合う効果音を表現するとしたら、"ゴゴゴゴッ"しかないだろう。
ナニやら背後にオーラーが見えたりしなくもない。
もっとよく目を凝らせば、正座の形だの揺らめき立つ者だのが見えたかも・・・。
「テメェラは何しくさってんじゃゴラァッ!!」
日頃のお調子者代表2人にとうとう瀬戸の堪忍袋の緒がブチ切れた瞬間だった。
「すみませーんっ!」 「もうしませーんっ!」
征樹がよく使う脱兎的逃走も真っ青なスピードで逃げ出して行く。
ちなみにちゃっかり征樹のお土産を持ち出している所は流石だ。
「他は許せても、こればっかは許せねぇッ!そこになおれぇぇーいッ!」
着物の裾をたくし上げて、瀬戸が逃げ出した二人を追って出て行く。
「あ、あはは・・・。」
そんな様子を見て、征樹はもはや苦笑するしかなかった。
2011年最後の更新です。
皆様、約十ヶ月お付き合い下さってありがとうございます。
また来年も宜しくご愛顧お願い致します。




