第ⅩxⅩ話:はじめのいーっぽ♪
気づいたら、この習作もとうとう100話目です。
皆様、ありがとうございます。
引き続きのご愛読の程、よろしくお願い致します。
「色々、あったわねぇ~?」
浜辺にシートを敷いて座る琴音と静流。
二人の視線は、遠く意味で遊んでいる征樹達に向けられている。
「そうですね。」
琴音を見ずに答える。
「でも、良い旅行になったわ。」
「良い思い出ですね。」
「それに加えてプラスになったわ。征樹ちゃんにも皆にも。」
皆が想いを少しずつ見せ合って、一時は収拾がつかなくなりかけたが、それでも結果的には良い方向に落ち着いている。
「好きな人と一緒に海なんて、私も初めて。」
「私もです。」
「あら、静流さんは、一緒に"お風呂"でしょう?」
「え゛?」
やはり完全にバレている。
「初めてじゃなかったのかしら?前に誰かと?」
「ないです、ないです、初めてですっ。」
言っていて、顔から火が出そうだったが、初めてだという事を主張する方が優先だった。
「そう、いいわね、"初めて"って・・・。」
「え・・・えぇ・・・。」
「でも、結局、"初めて"は"通過点"だから。」
「通過点?」
聞き返す静流の方を、ここにきてようやく見て琴音は微笑む。
「初めてが終わっても、相手との繋がりは続くの・・・だから、静流さんもはっきりしないとね。」
「はっきり・・・ですか?」
「続きがないのなら、別れる、離れ離れになると解っているなら、続きがあるように見せるのは残酷よ?」
残酷。
自分は期間限定の保護者。
今の立場なら、確かに終わりがある。
「逆に続きがないと互いに解っていても、それを創ろうと努力するのは決して無駄じゃないわ。そこにあるのは、必要なのは、想いの強さだけ。」
想いは新たに"別の続き"を紡ぐ事が出来る。
「なんて♪」
急に真剣な表情を緩め、琴音は笑う。
「一度、"失敗している"私が言う事じゃないわねぇ。説得力ゼロだわ~。」
「あ、あの、いいですか?」
「なぁに?」
ずっと気になていて、気になっていたからこそ、聞けなかった事がある。
それを今なら聞ける気がする・・・。
「琴音さんは征樹くんの事を?」 「好きよ、大好き。」
はっきりとした口調で琴音は即答する。
「征樹ちゃんは繊細で、優しくて、優しくて。だから、私なんかでも懐いてくれる、手を伸ばしてくれる。だから、征樹ちゃんには絶対に幸せになって欲しい。」
救われた人間だからこそ、琴音はそう願わずにいられない。
「私みたいな人間じゃなく、まだ初めて尽くしで、征樹ちゃんを大切してくれる貴方達を・・・。」
微笑む琴音を静流は、心から美しいと思う・・・でも。
「それは、琴音さんの押し付けです。征樹くんが、彼の幸せの中に琴音さんがいたら?征樹くん自身が、貴女が傍にいる事を望んだら?貴女はそれを拒むんですか?」
それはおかしい、間違っている。
「誰よりも征樹くんの幸せを願っている貴女が、征樹くんから離れていく、彼を愛するのを止めるのは、また別の話です。」
そこは毅然と。
静流だって、征樹が好きで愛しい。
だからこそ譲れないし、譲るわけにはいかない。
「優しいのね・・・。」
「違います・・・征樹くんが彼の想いが大切なだけです。」
征樹が必要というのなら、それが絶対の解なのだ。
「そう・・・。」
「私だって、征樹くんには幸せになって欲しいですから。」
もし、自分が選ばれなかったとしても。
征樹の幸福に関しては、本当に譲れないのだ。
「そう考えると、意外と征樹ちゃんも大変ね。」
「そうですね。」
互いに笑い合う。
その表情は晴れやかだ。
「静流さーん、琴姉ー。」
「あら。」
海から征樹の声が聞こえる。
「呼んでますね。」
「そうね。」
「一緒に遊びましょーっ。」
杏奈と奏が手を振って叫んでいるのが見える。
「行きましょうか?」
「ですね。」
次回、第陸縁最終話です。