エピローグ①「残されたもの」
街外れの墓地でガイールの埋葬を終えた後、イスカと一旦別れ、僕たちは宿へ戻った。
宿屋の部屋の机には、布に包まれた包みが二つ置かれている。
ドーレマンが後から人を寄越して届けてくれたガイールの持ち物。
リナは椅子に浅く座ったまま、それを見ているだけだった。
視線だけが二つの包みの上を行ったり来たりして迷っていた。
「……開ける」
小さく言って、ようやく手を伸ばす。
先に解いたのは短い方の包みだ。
中にあったのは、ガイールが下腿に装備していたレッグガードだった。
覚えている限りでは、上等な革と金具で組んだ実用本位のものだったはずだが、今は何か違って見えた。
リナの《解読》によると、表面の擦り傷の間に薄い線が新しく浮いているようだ。
《解読》は鑑定とは違うため、正確なスキルなどはわからないらしいが、これが遺物であることは明らかだった。
敵の嫌がる角度へ踏み込むため――そして敵の動きを即座に見極めて攻撃を避けるための脚をしっかり守ってくれていた防具だ。
リナはしばらく無言でそれを見ていた。
泣きそうな顔でも、怒った顔でもない。ただ、なくしたものの重さを測るみたいな目だった。
「……使うか?」
僕が聞くと、リナは首を振った。
「今は、まだ無理」
その答えは早かった。迷っていない声だった。
「でも、しまいこむのも嫌⋯⋯かも」
そう言ってから、リナはもう一つの包みへ視線を移した。
今度は長い包みの紐を解く。
布の中から現れたのは、見慣れた直剣だった。
刃には洗っても落ちきらなかった黒ずみが少しだけ残っている。
だが、それだけだった。
遺物特有の重い気配はない。
最後までガイールが握っていた剣だが、遺物にはなっていなかった。
リナがそっと柄へ触れる。
少しだけ唇が震えた。
「……こっちは、そのままなんだね」
僕は隣で頷く。
「何となくだが、この剣はあえて遺物にはならなかったような気がする」
剣を見ると何かそんな色を感じた。
誰かに力を遺すための剣じゃない。
ガイールが最後まで自分の手で振るい切った剣だった。だから、何も残らなかった。
そう思うと、それはごく自然なことのように思えた。
リナは直剣とレッグガードを見比べる。
「……こっちも置いとく」
リナは小さく言った。
「どっちもガイールが、ずっと持ってたものだし」
リナは両方をもう一度布で包み直した。
丁寧に端を折り、金具が刃へ触れないように間へ古布を挟みこんだ。
リナが普段使っている大きい荷袋の一番奥へそれをしまっている。
包みを収めた後、リナは荷袋の口へ手を置いたまま小さく息を吐いた。
「……ガイールの力を借りるのはもう少し先にする」
誰に向けた言葉かは聞かなくても分かった。
ガイールが最期まで愛用した直剣と守り抜いて遺物となったレッグガード。
残り方は違うが、どちらもリナの心の中では同じ場所にしまわれた。




