表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/80

第21話


 夜も更けて来た。ギルドで討伐証明であったグリーンビーグの冠羽を提出し、依頼達成した後はそのまま宿に戻ってきていた。

 宿の机の上には、グリーンビークの魔核が並んでいる。

 今日の戦いにはちゃんと手応えがあった。リナも僕も前より一つ先へ進めている感覚はある。

 だが、気持ちは何となく落ち着かない。


「抽出はどうする?」


 リナが椅子に腰かけたまま聞いてくる。


「今やろうか。すぐ終わるし」


「グリーンビークの核ってどんな味なんだろ? 今までで一番綺麗な色」


 僕らは机の端に抽出器を置き、宝石のような色の魔核を入れて操作する。

 抽出時の光や音に少し遅れて、やや緑がかった雫が生成されていく。


「五羽分だけど、思ってたより少ないね」


「まぁ、Fランクだしな」


 受け皿に溜まった紋滓は少しだった。

 僕らはそれを順に分けて飲むが、リナには多めに飲んでもらう。

 

 ――青臭い。

 いろいろな野菜を絞った苦い液体の味。


「⋯⋯まずい。色は関係ないんだね」


 抽出器を軽く拭いて片づける。

 そこでやっと一息つけた気がした。


 今日の分は終わった――そう思いたいのに、僕の胸の中には東門のあの荷馬車のことが頭に残っていた。


 リナは椅子に座ったまま、自分の手のひらを見ている。

 疲れている顔をしているのに、少しだけ嬉しそうにも見える。今日の戦いで成果が出ていたのは、僕よりもリナの方だろう。


 非戦闘職にも関わらず、空を飛ぶFランクの敵を、自分だけの力で倒しきったのだから。


「手はまだ痛いか?」


「少し赤くなってるけど、大丈夫だよ」


 そう言ってから、リナは少しだけ目を細めた。


「アーテルは?」


 言われて、僕も小手を外して右手を軽く握ってみる。

 まだ腕の奥に熱が残っている。

 今日はこの小手を装備した状態でも、『黒』に鋭さを伴わせて、しかも同時に飛ばすことができた。


 だが、力の方向をコントロールすることがとても難しかった。今の段階では、同時に撃つ――《連牙(れんが)》は、そう簡単に使える技じゃないことはわかる。練習あるのみだ。


「手の痛みは今はもう大丈夫だが、もっと撃つ方向の狙いをつけられるようにしないといけない」


―――――


 その後は、少し遅いご飯として宿の食堂でスープとパンを食べた後、部屋でのんびりと今日の話をして過ごした。

 グリーンビークの飛び方、鎖の伸ばし方、東門で出会ったイスカという少女のこと。

 背は低く、顔もかなり幼く見えるのだが、精神的には落ちついているような印象が強かった。


 そんな他愛のない話をしているうちに、リナの声はだんだんゆっくりと静かになっていく。


「⋯⋯ちょっと、眠い」


「今日は早く寝た方がいい」


「わかった…⋯」


 疲れていたのだろう。

 ベッドに横になったリナは、そのまま本当にすぐ寝てしまった。

 僕はしばらくリナの寝息を聞きながら、ぼんやりと今日あったことを思い返す。


『日中に追っても、途中で人と荷に紛れて逃げられますよ』

 

 イスカはそう言っていた。

 知りたいなら夜に行ってみるしかない。


 寝入ったばかりのリナを起こす気にはなれなかった。

 様子を見るだけでも危ないかもしれないし、何かあった時には一人の方が逃げやすい。


 僕はそっと立ち上がり、外套を羽織る。

 小手は置いて朧差だけを腰に装備すると、音を立てないようにするりと部屋を出た。



―――――



 東門が見える少し手前で、僕は歩く速さを落とした。


 門はこの時間でもまだ荷馬車の出入りがある。ただ、日中と違って並ぶほどではない。


「一人なんですね」


 背後から小さな声がして、僕は振り返った。

 そこにいたのはイスカだった。


 夜の灯りの下で見ても、見た目の幼さが際立っているが、その落ち着いた声や話し方で相殺されている。


「来ると思ってたのか」


 僕が聞くと、イスカは少しだけ肩をすくめた。


「あの荷馬車に目をつけたなら、協力してほしいとは思っていました。もう一人は来ていないのですか?」


「あぁ、部屋で寝ていたから起こさずに来た」


「え、一緒のお部屋なのですか?」


 イスカの声に一瞬力が込められた。


 僕は少しだけ首を傾げる。


「そうだが」


「――そうですか」


 返事はすぐだった。ただ、そのあとの間が少しだけ変だった。


「何だ?」


「いいえ。別に何でもありません」


 言いながら、イスカは小さく咳払いをした。


「でも、一人で来たのは正解です。今日は人が多いと何かあった時に引きにくいので」


 イスカはゆっくり僕の目を見てくる。


「⋯⋯あの子を置いてきたのは、危ないと思ったからですか?」


「それもあるし、今日はまず様子を見るだけにしたかったからな」


「そうですか」


 今度の「そうですか」は、さっきより少し柔らかかった。イスカは東門の方へ目を戻す。


「こっちです。どこへ行くかは、正面から見ていても分かりません」


 そう言って、イスカは門から少し外れた裏手の道へ入っていく。僕もその後ろを追った。


 僕たちは倉の壁沿いを進み、角をいくつか折れると、そこだけがすっぽり影に入っていた。


 明るいのは通り道の側だけで、こちらの壁際までは灯りが届いていない。

 昼間なら隠れようのない場所だが、夜は倉の影が濃く、向こうからは見えにくい死角になっていた。


「ここは夜は見えにくくなります」


「この辺りのこと、よく知ってるんだな」


「ヴァレスタでの仕事歴は長い方なので」


 イスカは短く答えると、それ以上は何も言わない。

 やはり、僕やリナよりも年上か。

 見た目は明らかに年下なのだが、その佇まいや言動、雰囲気からは年上のオーラが出ているように思う。

 僕の気のせいかもしれないが――。


 僕がもう一歩前へ出ようとすると、イスカが僕の腕を引っ張って止めた。


「そこの足元、音が鳴るのでご注意を」


 そう言って、隣に密着してくる。

 ――近い。

 細い体が触れるほど寄ってきたせいで、腕に胸元のやわらかさまで伝わってきて、少しだけ落ち着かなくなる。

 その間近な距離からイスカの横顔を見ると、かなり整っているのが分かる。

 だが、その人形のように無表情な顔からは心が読めない。


「こういうのは、お姉さんの計画通りにしてください」


 その状態で真面目な顔で返すので、少し拍子抜けした。


「自分で……お姉さんって言うんだな……」


「それは当然です」


 イスカは何事もなかったように東門の方へ目を向けた。ここからはうまく見えないが、そろそろ荷馬車が来る時間帯なのかもしれない。


 目の前の道はかなり細い。

 普通の荷馬車なら通れないだろう。


「この細い道を……あの荷馬車は通ります」


「最初からここを通れるように設計しているのか」


 僕らはその影で身を潜めて待つ。


 ここら一帯は、夜の街の賑やかさからは少しだけ切り離されている。

 大通りから離れているため、とても静かだった。


 結構な時間、お互い無言で待っていると、遠くから荷馬車の音が近づいてきた。


 少しずつ姿が見える。

 やはり、例の黄土色っぽい色の幌を被った荷馬車だ。

 今朝見たものとまったく同じ物かというと、微妙に違うことは何となくわかる。


 「……来た」


 イスカが小さく呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紋章/能力バトル/ファンタジー/逃亡劇/神話/成長/レベルアップ/属性
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ