孤独なあなたと私
白石梨花
桜賀高校一年の夏、私は水無聡に出会った。彼は頭が良かった。話しているうちに仲良くなり、一緒にいることが増えた。
「やっぱり水無は賢いね。」
宿題を解き終わったときに言った。
「ただ勉強が好きなだけだよ。」
頭を掻きながら応える。
「それでも賢いじゃん。」
「ありがとう。」
そういうやりとりをしながら、帰る支度をする。外はもう暗くなりつつある空を窓越しに見つめながら
「もう帰ろうか。」
「そうだね。あまり遅くなりすぎるとよくないしね。」
水無も帰りの支度をしはじめる。私は荷物をまとめて鞄に入れ、肩にかける。それに合わせて水無も鞄を背負う。話しながら教室を出た。
「今日の数学の課題難しかった〜。水無教えてくれてありがとう。これで完ぺきだよ。」
「それなら良かったよ。確かに今日の数学ちょっと難しかった。」
「そう言いながらも教えてくれてるじゃん。」
「塾に通ってるから、先に習っていただけで、僕がもし初めて習ったなら分からなかったよ、」
「ふーん」
(嘘だな)と思いながら聞く。水無は真面目だ。休日は塾に通っている。休みの日でも勉強するような人間が真面目じゃないわけがない。それでも自分のことを下げながら話すのは水無なりの優しさだと思う。それは彼の性格も関係している。親切な人間ほどまわりをよく見て気遣っている。
「優しいね。水無」
「急にどうしたの?でも、ありがとう。白石さん。」
照れながらもちゃんとお礼を言うところも水無のいいところだ。
なんだかんだで桜賀駅に着いた。水無は家から歩いて学校に来ているけど、私は電車で来ているため、もうお別れだ。
「ばいばい、水無。また明日。」
「ばいばい、白石さん。また明日学校で。」
私は駅の改札を通る。そして、後ろを見て手を振る。すると、水無も手を振り返してきてくれた。それを見て今日も安心する。水無に嫌われることが怖いからだ。私はあまり友達を作るのが得意ではない。それが理由で、今いる友達の数が少ない。それを悪いことだと思ったことはない。別に関わりたいと思った人とだけ、関わりを作っているので困ったことはないからだ。そんなこんなで家までの電車に乗る。外は夕方なので日が落ちてきている。その景色をぼんやりと眺めた。
家に着いた頃には外は暗くなっていた。学校に行くためには一時間ほど登校にかかるので帰ってきたころには日は落ちていた。家のドアを開け
「ただいま!」
「おかえり、もうごはんできてるよ。」
そう言いながらリビングの方から出てきたお母さんに
「今日のごはんなに?」
「今日はカレーライスね。今日は遅かったわね。なんかあったの?」
「今日の数学の宿題が分からなかったから、友達に教えてもらってたんだよ。」
「そうなの。それなら良かったわ。いつもより遅かったから心配したのよ。次から遅くなる日があったら連絡してね。理由が分かったら安心するから。」
「次からはそうするようにする。」
そう答える。手を洗った後、リビングの椅子に座って机に置かれているごはんのラッブを外して食べる。
「おいしい!」
「それは良かったわ。」
そういう会話を続ける。
少し経ってからお風呂に入り、自分の部屋に戻る。部屋に戻ってからは明日の高校の準備をしてから、机に向かう。今日出された課題の残りを解き始める。水無に教えてもらったおかげであまり詰まることなく宿題を終わらせることができた。それからスマホでちょっとゲームをしたり、漫画を読んだりした後に布団に入った。
次の日、私は六時に目を覚ました。眠い目をこすりながら、リビングに向かう。お母さんは朝早くから仕事に向かうため、朝を起きたときにはもういない。机に置いてある朝食をとって、制服を着て、荷物の確認をしてから学校に向かう。外の空気は澄んでいて気持ちが良かったので伸びをした。
「今日も頑張るか。」
そうつぶやきながら、駅に向かう。
学校に着いたのは八時半頃だった。校舎前に水無がいたので話しかけようと思ったが先生に怒られていたので、私は先に教室に行くことにした。
(水無は何をしたんだろう。あまり怒られたところ見たことないからめすらしいな。あとで理由でも聞いてみよう。)そう思いながら、教室のドアを開ける。すぐに自分の席に着き、机に鞄を置く。鞄に入れている教科書を机にしまい、スマホを開けてゲームをはじめる。水無が来るまではゲームすることにした。
ホームルームがはじまる少し前に水無は教室にきた。水無は暗い顔をしていた。まるで何かに疲弊しているような表情をしていた。
「水無、どうした?」
「なんにもないよ。」
「めっちゃ暗い顔してるからどうかしたのかなと思って。」
「とくに何もないよ。僕そんなに暗い顔してたのか…」
「うん、すごい暗い顔してた。」
このことはあまり深く探らないほうがいいと思ったから話題を変えた。普段より暗い顔をしていたことを気にしながらも、何も聞くことができなかった。
三時間目が終わったあとの休み時間に水無に話しかけようと思ったが、山西に水無が話しかけられていたので話しかけるのをやめた。山西は学年でも有名なほど頭がいい優等生だ。
(水無と山西って関わりあったけ。あんまり話しているところ見たことがなかったけど意外と仲がよかったりするのかな。)なんて思っていた。すべてが遅かったことに私はまだ気づいていなかった。
四時間目が終わり、昼食の時間になった。私は水無と一緒にご飯を食べようと思って、話しかけようと自分の席を立ち、水無の方を見るとホームルーム前と同様に山西に話しかけられていた。
(今日は水無は無理そうだし、一人で食べようかな。)と思い、教室を出た。
昼食を取ってから余裕があったのでさっさと教室に戻って本を読もうと思ったので、教室に戻っている途中で水無を見つけたので声をかけた。
「水無、ここで何してるの?」
「っ!白石さん、なんでここに。」
急に話しかけたから驚いたという顔をしていた。
「ご飯を食べた後の戻ってる途中だよ。水無は今からどこ行くの?」
「僕は今から昼食を食べるだけだよ。」
「そっか〜。ていうか水無、今日よく山西に話しかけられてたよね。水無と山西ってそんなに仲良かったっけ?」
そう聞いた途端に水無の顔が暗くなる。
(あまり聞いたらいけないことを聞いたのかな。)と不安になりながらも話し続ける。
「山西とそんなに話しているところ見たことあまりなかったけど。」
「それは……」
「なんかあったの?」
「いや大丈夫。気にしないで。」
「そう、それなら私は教室に戻るから。」
「うん、ばいばい。」
水無はなんかに焦っていた。それでも私に今できることはない。水無がその何かにを話してくれるまで待つことしかできない。私は拳を強く握りしめた。
私は今日、水無とは帰らなかった。帰ろうとした突然に山西に話しかけられているのを見て一人で帰ることにした。帰る途中に水無の暗い顔を思い出した。
(なんであんな顔をしてたんだろう?山西とは仲がいいんじゃないの。)と本人がいないと解決しない問題で悩むことになった。私はいろんなことで水無に助けられてきた。そのうちに水無に惹かれていったのかもしれない。私は悔しい。水無に対して何もできない自分の弱さが。それでも私は水無を信じている。どうしょうもないときには私を頼ってくれると。
次の日、朝学校に着いた頃私は見てしまった。水無は男子生徒三四人に絡まれていた。その男子生徒をよく見ると一人は山西だった。これはそういじめである。この状況を見た途端理解してしまった。水無がなぜあんなに暗い顔をしていたのか。それはいじめられているからである。だから、私にも水無は話してくれなかった。私は水無を助けようと思って、その男子生徒に近づこうとすると水無は必死で首を振った。水無はこのいじめに私を巻き込みたくなかったのだろう。水無がそうしているのを見ると、助けに行くことができなくなった。私も水無を助けていじめられることに抵抗がないわけではない。やっぱり、もしかしたらいじめられるかもと思いながらも自分の正義を貫き通すことはとても難しいと思った。私は最後まで水無を助けることは出来なかった。
水無聡
僕は昔から人一倍努力していた。できるだけ苦手なことを減らし、外面的にも自分を強く見せてきた。だがしかし、それが崩れたのは高校生になってからだった。僕は白石さんに会ってから、自分は強くなったと思い込んでいた。だからこんな結果になった。いじめられるのは些細なことだった。校内で僕はいじめの現場を見てしまった。このときをこれほど後悔したことはない。僕は自分の正義感でいじめられている人を助けに入ったことによって、自分がいじめの標的になった。それから山西を中心としたやつらにいじめられるようになった。このことは白石さんには知られまいとこのことについて話すことはなかった。しかし、いじめはどんどんエスカレートしてきた。だがしかし、いじめの内容に暴力はなかった。だから、怪我もしないから先生には見つからないと考えたからだろう。山西は学校では優等生だ。成績は学年でもトップクラスで先生たちからの評判がいいので、僕が「山西にいじめられている」と先生たちに言ったとしても、軽くあしらわれてしまうだろう。そういう意味でも、どの立場をとっても山西に勝つことはできない。そんな中、恐れていることがおきた。いじめられている現場を白石さんに見られてしまった。白石さんが近づいてくるので、全力で首を振った。
(自分の無駄な正義感によって始まったいじめに白井さんを巻き込みたくない。もしかしたら、僕から白井さんにいじめの標的が移るかもしれない。近づいたらダメだ。お願いだからこっちに来ないでくれ。)と白井さんが巻き込まれないことを願った。すると、白井さんは少しずつ後ろに下がっていった。良かったと安堵した。これは僕が原因のいじめだから、他の人を巻き込みたくない、とくに白石さんは巻き込みたくなかった。
(白石さんが離れてくれてよかった。)
どれだけ安堵したところで、僕のいじめは終わらない。僕は強く唇を噛んだ。
白石梨花
私は放課後に水無に会った。
「水無、離したいことがあるから一緒に帰ろう。」
水無はびっくりした顔をしたが、
「うん」
と応えた。それから私たちは学校から出た。
「ちょっと話したいことがあるけど、学校の近くでは話すことができないから、風道公園に行こう。」
風道公園は私の中学生の頃、いろんなことに疲れてすべてが嫌になったときに、適当にふらふらしていたらその公園についた。公園入ってすぐのベンチに座ったら落ち着いてきた。それから何か嫌なことが会ったらこの公園によく来ていた。そんな公園に水無を連れて行く。
「白石さん、なんでこの公園に?」
「実はね、私中学生の頃によくこの公園に来ていたの。」
「そうなんだ。」
私は話を続けた。
「私が中学二年生の頃に親が離婚したんだ。」
水無は黙っていた。
「私は父親が結構好きだったんだ。いつもよく話していたし、一緒にゲームしたり、遊びに行ったりしてた。でも信じていた父親の不倫が原因で離婚したから親や友達を信じれなくなっちゃって始めは部屋にこもってたけど、部屋ですらいるのが苦しくなって彷徨ってたらこの公園に来たんだ。とりあえず、落ち着こうと思ってベンチに座ったら、涙が込み上げてきて分かったんだ。一人って孤独なんだなって。」
私は部屋にこもっていたときはどうしても人に関わるのが怖かった。それは信頼していた人に裏切られたという気持ちがあったからだと思う。父親を信じていたから、不倫をしていたって聞いたときには信じられないという気持ちが強かった。今までこんなに近くにいた人間に裏切られるなんて思ったことがなかったからだろう。そうしていたら悔しいという気持ちよりももう人を信じないっていう方の気持ちのほうが強くなった。それでも家の中にこもり続けることもつらかった。解放されたいと思って家を出て、家より遠いところに行きたいと思って電車に乗った。電車に乗ってからはただ過ぎていく景色を見つめていた。どこに行きたいとかどこに行こうとしているのかは分からなかったけどふと思いついた駅で降りた。駅を出てすぐに桜が見えた。
「桜、もうそんな季節なんだ。」
とささやく。私は部屋にこもっていたから季節なんてものは気にしていなかった。それでも桜に魅入られて風道公園に入った。公園には桜の木で道ができていた。私は感嘆した。
「きれいだな。」
この景色を見ていると、自然と涙がでた。もうあの頃には戻れない。昔のように父親と話したりすることはできない。それは自分で選んだ道で父親と離れることは自分で決めた。私は母親と一緒にいることを選んだんだ。それなのに、私は今孤独の道を選ぼうとしている。それじゃダメだ。信じることをやめたらダメだ。そう思うと心がスッキリしてきた。
辛い頃の記憶を話すことにためらいはなかった。水無ならしっかり聞いてくれると思ったからだ。
「だからさ、一人で抱え続けることはつらいことだよ。」
水無はしっかりと私の話を受け止めてくれた。そして私に話すかを悩んでいる。それなら私は水無が話しやすいようになるまでゆっくり待つだけだ。
水無聡
僕は白井さんの話を聞いて、白井さんは前に進むことができたんだなと思った。僕も前に進まないといけない。それでも白井さんに話すのは怖い。それでも白井さんが僕を信じてくれたように僕も白井さんを信じてみよう。僕は足を踏み込むことに決めた。
「僕、いじめられてるんだ。知ってると思うけど。」
「うん、知ってるよ。」
「僕は高校生になって強くなったと思ったんだ。高校に入ってからちょっと経ったくらいにいじめの現場を見たんだ。それで、僕は自分の正義感から助けようと思った。別にためらいがなかったわけじゃないんだ。なんなら怖かったけどそれでもこのまま見捨てるのは後悔すると思って助けることにした。そこから僕がいじめの標的になった。山西は学内では優等生だからいじめられているって先生に話しても信じてくれなかった。それからはどんどんエスカレートして行った。あいつらがすべてのことを僕のせいにした。」
苦しかった。でも、僕はいま解放されている。すると自然に涙が出てきた。
「苦しかった。ずっとずっとつらかった。僕がいじめの現場に関わらなかったらこんなことになってなかったのかな。」
「そんなことない!水無がやったことは無駄じゃなかった。」
白井さんが強く言う。そう言ってくれてうれしかった。自分のしたことが無駄じゃないなかったと度ということが人に言われただけで落ち着く。
「ありがとう。」
「もう抱え込まなくていいんだよ。」
「もういじめられたくない。あんなやつらのせいで生きるのが嫌になりたくない。」
自分の心の中を人に伝えたのはいつぶりだろう。心の中がすっきりした。今まで悩んでいたことが小さいことのように感じた。僕も白井さんも一人で抱え込んでいた。それから孤独に苦しめられてつらくなった。それでも白井さんは前に進んだ。僕も前に進むんだ。まだ、解決していないことがたくさんある。それでも前に進まないことには終わらない。これからも困難が立ちはだかったとしても僕はもう屈しない。もう前に進むって決めたから。




