番外編「ある日の執務室と甘い果実」
王宮の庭園の一角に、見事に実ったトマト畑がある。
そこは「聖域」と呼ばれ、王宮の庭師たちでさえ許可なく立ち入ることはできない。
その畑の主であるリアンは、今日も泥だらけになって収穫作業に勤しんでいた。
「よし、今年の出来は最高だ」
真っ赤に熟れたトマトを籠に入れ、満足げに汗をぬぐった。
その時、背後から影が落ちた。
執務の合間を縫って抜け出してきたジェラルドだ。
彼は堅苦しいジャケットを脱ぎ捨て、シャツの袖をまくっている。
「精が出るな、リアン。少しは休憩しろ」
「ジェラルド様! また抜け出してきたんですか? 侍従長が探してましたよ」
「知らん。俺の栄養補給はお前だけだ」
彼はリアンを後ろから抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
土の匂いと、リアン特有の清涼なフェロモンが混ざり合い、彼を癒やす。
「……泥がつきますよ」
「構わん。むしろ、この匂いが落ち着く」
彼は籠からトマトを一つ取り出し、そのままかじりついた。
果汁が滴り落ちる。
「甘いな。お前が作ったものは何でも美味い」
「……トマトの話ですよね?」
「トマトも、だ」
彼は意味深に笑い、リアンの唇に残った果汁を舐め取った。
リアンは顔を真っ赤にして抗議しようとするが、すぐに口を塞がれてしまう。
青空の下、トマト畑の中心で、国の頂点に立つ男とその愛するつがいは、二人だけの時間を楽しんでいた。
遠くから侍従長の叫び声が聞こえてくるが、今の二人には届かない。
これが、彼らの日常であり、最高の幸福なのだ。




