第13話「新しい契約と未来への種蒔き」
目が覚めると、そこは王宮の一室だった。
見覚えのある天蓋付きベッド。
窓からは美しい庭園が見える。
体の痛みはない。
むしろ、以前よりも体が軽く、魔力がスムーズに流れているのを感じる。
抑制剤の縛りから解放されたせいだろうか。
「気がついたか」
サイドテーブルの椅子に座っていたジェラルド王子が、本を閉じてこちらを見た。
彼の顔には疲労の色が見えるが、瞳は穏やかだ。
わたしは起き上がろうとして、自分の首に違和感を覚えた。
首輪……ではない。
魔力を帯びたチョーカーのようなものがついている。
「それは『守護の首飾り』だ。俺の魔力を込めてある。これをつけていれば、お前のフェロモンは俺以外には感じられない」
「……マーキング、ですか?」
「より強力なやつだ。文句あるか?」
彼は悪戯っぽく笑った。
文句などあるはずがない。
これがあれば、もう抑制剤に頼る必要はないのだから。
「あの男たちは、どうなりましたか?」
「全員捕縛した。隣国の残党と、国内の不満分子が手を組んでいたようだ。お前のおかげで一網打尽にできた」
「カイル様は?」
「あいつなら、お前の見舞いに毎日来ていたぞ。うるさいくらいにな。今は廊下で待たせている」
ドアが勢いよく開き、カイル様が飛び込んできた。
その後ろにはノエルもいる。
「リアン! 生きてるか!?」
「大げさですよ、カイル様」
カイル様はわたしのベッドの端を握りしめ、涙目で言った。
「お前がいなくなったら、誰が僕のネクタイを結ぶんだ! 誰が朝起こしてくれるんだ!」
相変わらずの言い草だが、その言葉の裏にある安堵は伝わってきた。
ノエルも心配そうに覗き込んでくる。
「良かったです、リアンさん。本当に……」
「ありがとう、ノエル君」
一通り騒いだ後、ジェラルド王子が咳払いをした。
「さて、カイル。話の続きだ」
カイル様は居住まいを正し、神妙な顔をした。
「……わかっています、殿下。リアンとの従者契約は、本日をもって破棄いたします」
「えっ?」
わたしが驚くと、カイル様は寂しげに笑った。
「お前はもう、僕の手に負える器じゃない。それに、殿下のつがいを従者にしておくなんて、不敬罪で首が飛ぶよ」
「ですが……」
「気にすんな。ノエルが、僕の秘書兼世話係をやってくれることになったから」
見ると、ノエルが恥ずかしそうに頷いている。
いつの間にそんなフラグが立っていたのか。
原作とは違うが、これはこれで良い組み合わせかもしれない。
カイル様とノエルが退室した後、部屋にはわたしとジェラルド王子だけが残された。
「これで障害はなくなったな」
彼はベッドに腰掛け、わたしの手を取った。
「約束通り、農業をさせてやる。王宮の裏にある耕作放棄地を、お前の好きに使っていい」
「……本当にいいんですか? 王子のつがいが泥まみれになっても」
「俺も手伝う。剣を鍬に持ち替えるのも悪くない」
彼は真顔で言った。
本気らしい。
最強の王子様と畑仕事。
想像するとおかしくて、わたしは吹き出してしまった。
「ふふっ……わかりました。お受けします」
「それと、もう一つ契約がある」
彼はわたしの左手の薬指に、指輪を嵌めた。
シンプルな金の指輪だが、内側には彼の名前が刻まれている。
「一生、俺のそばにいろ。これは命令ではなく、懇願だ」
その瞳は、初めて会った時の氷のような冷たさはなく、春の日差しのように温かかった。
わたしは指輪を見つめ、そして彼を見つめ返した。
「……はい、ジェラルド様。謹んでお受けいたします」
彼がキスをする。
今度は薬の味ではなく、甘く、幸せな味がした。
窓の外から差し込む光が、わたしたちの未来を祝福しているようだった。
わたしの波乱万丈な学園生活は幕を閉じ、新たな「育成ライフ」が始まろうとしていた。




