第12話「覚醒の魔力と運命のつがい」
舞踏会での騒動から数日後、わたしは学園の裏庭に呼び出されていた。
差出人はカイル様。
「大事な話がある」というメモを受け取ったのだ。
だが、そこにいたのはカイル様ではなかった。
黒いローブをまとった数人の男たち。
その魔力波動は、あの迷宮で感じた強化ゴーレムと同じ質のものだった。
「やはり来たか。ジェラルド殿下のお気に入り」
男の一人が嗤う。
わたしは即座に踵を返し、逃走を図った。
だが、周囲にはすでに結界が張られていた。
空間が歪み、出口が見つからない。
「無駄だ。ここは隔離された空間。誰も助けには来ない」
「目的は何ですか」
「お前の正体だよ。オメガだろう? それも、ただのオメガではない。殿下をたぶらかす希少種だ」
彼らはわたしの秘密を知っている。
男爵の仲間か、あるいは敵対国の工作員か。
男たちが魔法を一斉に放つ。
わたしは防御魔法を展開するが、多勢に無勢だ。
結界内では抑制剤の副作用が強く出るのか、魔力の制御がうまくいかない。
障壁が砕かれ、衝撃で吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられ、激痛が走る。
男の一人がわたしを見下ろし、何かを唱え始めた。
拘束魔法だ。
手足が動かない。
男の手が伸びてくる。
「殿下の目の前で、お前を汚してやれば、あの冷徹な王子も発狂するだろうな」
最悪のシナリオだ。
ジェラルド王子を精神的に追い詰めるための道具として、わたしを使おうとしている。
絶望が胸を覆う。
だが、その時だった。
結界に亀裂が入った。
ガラスが割れるような音と共に、黄金の光が空間を切り裂いた。
「……貴様ら、死にたいようだな」
地獄の底から響くような声。
裂け目から現れたのは、剣を抜き放ったジェラルド王子だった。
彼の全身からは、怒りという名の魔力が青白い炎のように噴き出している。
その姿は、まさしく「聖騎士」の名にふさわしい。
だが、その瞳は正気とは思えないほど赤く輝いていた。
「ジェラルド……!?」
男たちが怯む。
王子は一歩踏み出し、剣を一閃させた。
それだけで、男たちの張っていた結界が粉々に砕け散る。
圧倒的な力。
「リアンに触れるな」
彼は獣のように咆哮し、男たちに襲いかかった。
魔法も剣技も、すべてが一撃必殺の威力だ。
男たちは為す術もなく薙ぎ払われていく。
だが、最後の一人が、隠し持っていた魔道具を起動させた。
自爆だ。
膨大な魔力が膨れ上がる。
「殿下、危ない!」
わたしは拘束を無理やり引きちぎり、叫んだ。
自分の身を顧みず、彼を庇おうと飛び出す。
その瞬間、わたしの体内で何かが弾けた。
抑制剤で押さえつけていた魔力と、オメガとしての本能が完全に解放されたのだ。
わたしの体から、眩いばかりの光が溢れ出した。
それは純白の輝き。
全属性の魔力が融合し、絶対的な防御領域を作り出す。
自爆の炎はその光に飲み込まれ、音もなく消滅した。
周囲が静寂に包まれる。
わたしは力を使い果たし、崩れ落ちた。
地面にぶつかる前に、温かい腕がわたしを受け止めた。
「……リアン! しっかりしろ!」
ジェラルド王子の声が震えている。
薄れゆく意識の中で、わたしは彼の顔を見上げた。
泣いているのだろうか。
視界が霞んでよく見えない。
ただ、彼の匂いがわたしを包み込んでいることだけがわかった。
心地よい、魂が安らぐ香り。
「匂いが……変わった」
彼はつぶやいた。
わたしの体から放たれるフェロモンが、彼と同調し、混じり合っている。
それは「運命のつがい」として完全に覚醒した証だった。
「俺の、つがい……やっと見つけた」
彼はわたしの額に口づけ、強く抱きしめた。
その腕の中で、わたしは深い眠りに落ちていった。
夢の中で、金色の麦畑が風に揺れている光景を見たような気がした。




