その目(1月7日)6
何度か頭をぶん殴られ、レオはようやく黙った。
デリカシーがないにも程があるわ! そう言って、ガーネットはもう一度後輩の頭を拳で殴る。
「とにかく犯人は遊んでるとしか思えない。それともこの街を暗示してるつもりかしらね」
「何、どういう?」
独り言に近い小さな呟きをドクター咲良が聞き咎めた。
馴れ馴れしい奴ねと毒づきながらも、ガーネットがやはり小声で返す。
「つまり、正義が見えない。生命に触れない。街から逃げられない。明日なんてない。死、あるのみ」
「へぇ……刑事さん、詩人だねぇ」
からかうような口調にガーネットが顔を赤らめる。
イヤだ、調子に乗って恥ずかしいことを言ってしまったわというように苦々しくピンクの目を睨み付ける。
握り締めていた拳を解いたのは、ブラッドに見据えられていると気付いたからだ。
「何でカンナが……?」
「それは……」
何故、よりによって彼女が狙われたのか?
今、男の頭は疑問が渦巻いているに違いない。
そんなこと、アタシにだって分かんないわよ。犯人に聞きなさいよ、とは言えないのだろう。
「ひ、被害者を選ぶのに法則があるのかというと、現段階で判断するのは難しいわ。ただ、2人共この店の従業員という事。若い女性という事」
「えっ、コワイよ」
樹楽が声をあげる。双子と顔を見合わせた。
「次はあたしたちとか言わないでくださいよ」
「絶対に独りで出歩かないようにしなくちゃ」
女刑事は面倒臭そうに頷いた。
アンタたちをさらっても喧しいだけで、犯人が迷惑するかもねと言いたいのをこらえているといった表情だ。
「ええ、まぁ気を付けてちょうだいよ。そもそも猟奇殺人ってのは殺人そのものを楽しむタイプと、それを世間に誇示して優越感に浸るタイプの2種類あるわ」
──『5』は、もちろん後者ねと、彼女は続けた。だからこうやって何某かのものを送っては、こちらにコンタクトをとってくるのよ、と。
「犯人は間違いなく単独犯ね。そしてこの店の人間関係に詳しい。その人が居なくなったら血眼になって捜す者がいるという人間を選んで犯行を行うのよ。それを見て楽しむためにね」
一息に語ってから、女刑事はせわしなく煙草を吸う。
一同は互いに顔を見合わせた。
突然こんな事態に放り込まれて、皆戸惑いを隠せない表情だ。
しかも、ここにいる全員が容疑者だって?
「勘で犯人扱いされちゃたまりませんよ」
Kが皆の意見を代表して口にした。
──もっともな反応っスね。
レオがうんうんと頷く。
直後、背後にガーネットの殺気を感じて、頬を引き攣らせた。
その脱色頭を容赦なく殴ってから、ガーネットは続ける。
「アタシが関係者にこんな事まで話すのには理由があるわ。この中に犯人が居る。絶対よ。ここに居て、今この瞬間も楽しんでいる。犯人はそういう奴なのよ。明日からも何か行動を起こすわ。切断した指や爪を送る為に動くはず。だから、互いに監視し合ってほしいのよ」
そんなこと言われても……、と樹楽が首を振った。
ちょっと不愉快かな、と咲良も表情を曇らせる。
そんな中、Kは沈黙を守った。
視線は兄に注がれている。
その巨きな体が痛々しいくらいに激しく震えていることを他の誰にも気付かれないよう、弟は密かに祈っていた。




