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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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IED(既製爆破物)(1月10日)1

 忌まわしい記憶はすべて炎と結び付いている。


 彼には両親の記憶がなかった。

 父と母の居る家庭で育てられたのか、或いは孤児だったかもしれない。

 何も覚えていない。


 ただ幼い頃住んでいた村の風景だけは鮮明に脳裏に焼き付いている。

 緑が豊かで近くには湖があり、湖水に木漏れ日が静かに輝いていたあの光景──それは一瞬にして炎の記憶へとすり替わる。


 それは彼が五歳の頃だった。

 村が傭兵隊に襲われたのだ。

 奴等は金目のものと、それから目ぼしいと映った子供を攫っていく。


 旧ソ連を含む東欧地域では日常のようにあちこちで紛争が勃発していたから、それは珍しい事ではない。

 傭兵隊は自分達の利益の為というより、敵勢力にとっての休息地を奪う為に近隣の村を焼き払うのだ。


 攫った子供は少年兵として使う。

 大人と違い、力の弱い子供は暴力で従える事が出来る。

 時に安全なルートを探る為に地雷原の中を一人で歩かされることもあった。


 彼は傭兵隊の中で育った。

 シルヴァー+クロイツとはその時付けられた名だ。

 少年は襲撃時のショックで名前も記憶も失くしてしまっていたから。


 銃撃を受けて額がぱっくり割れ、引き攣れたように十字架クロイツの形を創った傷痕を見て誰かが付けた名だ。

 そこで彼は、武器弾薬に関する知識を実戦を通して学んだのだ。


 その経験が彼をヨーロッパ最強の武器職人へと育て上げる。



  ※  ※  ※


 目覚めてシルヴァー+クロイツは舌打ちした。


 昨日は、あれから食事を与えられた。

 その後すぐさま眠りに落ちたのは薬を盛られたのか、単に疲れていたのか。


 それほど手荒な扱いを受けた覚えはないが、全身が痛い。

 冷たい簡易寝台に寝かされていたせいだろうか。

 常に息を詰めている彼は頭痛持ちでもある。こめかみを押さえながら身を起こした。


 ──こんな状況で寝ていられるなんて、俺も神経が図太い……。


 周囲を見回す。

 コンクリートで作られた箱のような狭い空間。低い天井に電球が幾つか灯っている。

 逃亡を防ぐ為だろう、窓はない。

 空気の重さから、地下室だと推察出来た。


 部屋の壁一面には棚がしつらえてあり、銃器の部品が揃えられている。

 煙草と水も含めて、要求した部品はあらかた揃っていた。

 通常であれば、発注から少なくとも数週間はかかるものだ。

 あの女、横暴だが馬鹿ではあるまい。一体どんな手を使ったのか。


 唯一の出入り口である鉄製の扉には当然ながら外から鍵が掛かっていて、たやすく開けられそうにはなかった。

 ただ銃、弾薬を作れと言うだけあって棚には火薬がある。

 それを使えばこの頑丈な鉄扉を破る事も可能だろう。

 しかしその場合、室内の者とて相当なダメージを覚悟しなくてはなるまい。


 成程、ここから出るにはとにかく銃を造るのが一番の近道という事だ。

 完成したものを女ボスに突き付けて門まで案内させてやると思い描きながらも、彼女の為に銃を造るという矛盾。

 自由を奪われ、言われるがままに武器を造らされるというのも癪に障る。


 取り敢えずは状況を見極める為、暫くはここで大人しくしているしかあるまい。

 シルヴァー+クロイツは棚に置いてある煙草に手を伸ばした。

 ニコチンが切れたようだ。苛々してしょうがない。


 火を点けたそのときのことだ。

 突然扉が開いた。


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