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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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『シルヴァー・クロイツ』(1月9日)3

 しばらく走り、車は西欧風の派手な外観の館の前で停まった。


「こっちか」


 シルヴァー+クロイツは小さく呟く。


 ゴルト派かキング派──銃器製作者である自分をこんな風に拉致するとすれば、それは街を二分するマフィアのうちのどちらかの仕業に違いない。

 ここは『黄金屋敷(ゴルデンハオス)』と呼ばれる建物だ。

 黄金(ゴルト)の意匠が散りばめられた館で、つまり文字通りゴルト派の本拠地である。

 その建物の裏手にパトカーは停まった。


「はい、連れてきました。シルヴァー+クロイツっス。え? ホントっスよ、はい」


 隣りの男が携帯で話し始める。

 それに呼応するかのように裏門が自動で開いた。

 車のまま敷地内に進み、背後で門が閉まる音を聞いてからシルヴァー+クロイツを置いて男は車を降りる。


「いつも、どもっス」


 細く開けられた裏口。

 そこから差し出された手に握られていた札束を受け取る。

 それが恐らく自分の値段なのだろうと、シルヴァー+クロイツは冷めた目でやり取りを見詰めていた。


 中から出て来た人物に強引に腕を取られパトカーから引っ張り出されてからも、銀髪の青年は無言のままだった。

 裏口扉から建物の中に押し込まれる。


 視界は極端に悪かった。

 陽も沈み、辺りは闇に侵蝕されつつある。


 屋敷の裏手には、恐らく意図的にだろう。照明は一切なかった。


「貴様がシルヴァー+クロイツか」


 声の方向を見やって彼は一瞬、目を見張る。

 灯りなど必要ない程に輝く黄金の髪。


 そこに居たのはまだ若い女だった。

 黄金の髪、華やかなその容貌。

 体格に大きな差はあるが、真霧とさして年齢も変わるまい。

 しかし放つ空気は異質なもの。

 殺気とも違う熱風のような激しさを、彼女は全身から放っていたのだ。


 この女がゴルト派のボスか。

 シルヴァー+クロイツは確信した。


「貴様がシルヴァー+クロイツかと聞いているだろう!」


 無言の彼に苛ついたのか、黄金女は彼の前髪を強引に引っ張る。

 男の額を確認したのだ。そこにそれを見出して、満足したように手を放す。


「成程、確かに十字架(クロイツ)、だな」


 それは整いすぎていて人間味のない彼の容貌に、唯一の醜さを刻んでいた。

 その白皙の額には無残な傷跡──銃弾が掠めた痕が十字架クロイツの形に刻まれていたのだ。

 それこそシルヴァー+クロイツの名の由来だ。

 ただですら目立つ容姿なのに、この傷は命を狙う、或いは拉致を画策する者にとっては格好の目印となってしまう。


「シルヴァー+クロイツ……ヨーロッパ最強の武器職人がこんなに若いとはな」


 黄金の女は信じられないというように彼の全身を眺めた。

 細い体躯。銃職人にとって命である両の手は手袋に隠されているが、そこから最強の銃器が生み出されるとは信じ難い。


「ラトヴィアで生まれ、幼少期に旧ソ連の傭兵集団に拉致され少年兵として東ヨーロッパ各紛争地を回る。北コソボ危機、クリミア危機、ウクライナ内線……。そして4年前に軍を脱走。各地を転々とし、そしてここゴット・シュヴェルツェンにやって来た。細々と銃器のメンテナンスをしていたところ、その腕前が評判を呼ぶようになった、と」


 暗記した文章を読み上げるような口調に、男は舌打ちした。


「よく調べたな。俺ですら忘れているような事を」


「シルヴァー+クロイツともあろう男が街のチンピラの銃のメンテナンスで生計を立てる事はあるまい。わたしはゴルト。ゴルト派のボスだ。手荒な事をして悪かったが、これは交渉だ。どうだ、わたしの為にその技術を役に……あっ!」


 言葉は途中で途切れた。

 ゴルトの口は開いたまま微かに震えを帯びる。


 一瞬の動きだった。

 今まで大人しくしていたシルヴァー+クロイツの手が翻ったのだ。


 握られていたのは見た事もない造りの銀色の大振りの銃。

 銃口は真っ直ぐに黄金の女の額に押し付けられている。


「黙れ。ふざけた事を抜かすと殺すぞ」


 銀色の男の眼に一切の感情が見えない事にゴルトは冷たい恐怖を感じた。

 これが本物の戦場を潜り抜けて来た人間の放つ殺気というものなのか──震える全身を彼女は叱咤した。

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