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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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3.シルヴァー+クロイツ【Gewehr(銃)】『シルヴァー・クロイツ』(1月9日)1

 この街唯一のまともな──政府に認可されたという意味で──総合病院を出て、一人の男が立ち止まった。


 風に靡く銀髪。

 少々人間離れした印象すら受ける整いすぎた容貌。

 抜き身の刃を思わせる体躯。

 年齢は二十歳そこそこといったところだろうか。

 年に似合わず、その表情には暗い影が落ちてみえる。


 彼は病院の建物を出るなり苛々した動作で煙草を口にくわえ、火を点けた。

 深く息を吸い込んだところで、自分の後ろから小さな白い影が出て来た事に気付く。


 背が低くうっすらと骨が浮くくらいに痩せた、異様に色素の薄い少女だ。

 少女は頻りに目を擦っている。


 痛むのか、それとも泣いているのか。

 気付いた彼は病院の外壁で煙草をもみ消して少女の前、目を合わせる高さに腰を落とした。

 ハンカチを取り出し、目元を拭ってやる。

 少女の双眸は朝から立て続けに行われた検査で疲労し、真っ赤に充血していた。


真霧(マギリ)、大丈夫か」


「シル……」


 優しく涙を拭かれ、真霧は大きく顔を歪める。

 子犬のように全身がぷるぷる震えていた。

 必死で嗚咽を堪え、声を出さないように静かに涙を零していたのだ。


「すまなかったな、真霧。もうこんな病院ヤブには来ない。今度こそちゃんとした医者を見付けるからな」


「ち、違う……」


 真霧は必死に嗚咽を飲み込む。

 違う、自分のことで泣いてたんじゃない。

 真霧のせいでシルがこんなに困った顔をしている。それが申し訳なくて……。


 日毎に弱くなる視力。

 何箇所もの病院を回った。

 この病院に来たのだって3回目だ。

 今日だって検査に次ぐ検査。

 あげく言われたのが、この一言。


 ──視神経をやられている。回復は望めませんね。


 何度も耳にした台詞だが、その度に彼女は傷付いてきた。

 自分が辛いのは仕方がない。

 でも──と思う。目の前の銀髪の青年を苦しめることだけはしたくない、と。


「……真霧は平気」


 目はもういいの、シルは気にしないでと言いかけて少女は一瞬口ごもる。

 微動だにしない銀色の視線が、真っ直ぐ自分を見詰めている事に気付いたから。


「真霧、君の眸は俺が必ず治す」


 ──約束する。


 そう言われ、少女は小さく頷いた。

 零れた涙がとても温かいものに感じて、真霧の頬は小さな微笑を形作る。


 少女が泣き止むのを待って青年は駐車していた車に向かった。


 フランス、ソフラーム社(旧レール社)製小型4WD──VLB2000。

 それが彼──シルヴァー+クロイツの愛車だ。

 窓が広くて普通の乗用車のような外観だが本来戦場での使用を前提とした軍用車両であり、小銃弾に対する防弾能力を備えている。

 二人は車に乗り込んだ。


「『シリアルK』で食事をして、それから家に帰るか」


 少女がニコッと笑って頷いた。

 あのお店はお食事がおいしいのと、真霧はいたく気に入っている様子だ。


 彼女の笑顔を見て安堵の表情を浮かべ、シルヴァー+クロイツは車のエンジンをかける。

 エンジン音が通常より僅かに大きい。

 馬力を出す為、トルクに改造を施したものだと分かる。


 VLB2000は静かに動き出し、ゴット・シュヴェルツェンを駆け抜けた。

 灰色の景色が凄まじい速さで後方へ流れ行く。


 街では抗争が激化していた。

 マフィア間で戦争が始まるのだという。


 今もそこの路地裏で銃撃戦が始まったようだ。

 流れ弾にでも当たってはたまらない。


 彼はアクセルを大きく踏み込んだ。

 制限速度や信号などこの街では元より存在しないようなもの。

 車は猛スピードで郊外の病院から彼等の住む街の中心部に戻ってきた。


 もう少しで目的地だ。

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