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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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降夜(1月11日・2)4

  ※  ※  ※


 あの日、炎の中──。

 彼の腕の中でゴルトは突然意識を失った。


「ミサ……?」


 降夜はピクピクと鼻孔を動かす。果物の微かな匂いを感じた瞬間、背筋に震えが走った。

 黄緑の髪をした女が持っていたスプレーを思い出したのだ。


 まさか有機リン系神経ガス?

 日本の警察学校時代、そんな教材ビデオを見た記憶が僅かに蘇る。

 畜生、あの時は半分居眠りをしていたからよく覚えてねぇ。


 降夜が引金を引く間でもなく、彼女の側に居た2人は呼吸困難に近い症状に襲われて死んでいた。  

 ゴルトにも目眩、発汗の症状が表れていたではないか。

 火の中を動いたせいだと思っていたが、あれはガスの症状だったのだ。

 アレが神経ガスであれば十分程度で神経機能が狂い、窒息死に至る筈だ。


「待ってろよ、ミサ」


 降夜はゴルトをその場に横たえた。炎の中に踵を返す。

 崩れそうな階段を駆け上り、黄緑髪の女の死体を探した。煙に噎せながら女の服を探る。血に塗れたポーチの中にそれを見付けた時はほっとしたものだ。


 神経剤解毒キットMk.1──粘膜の過剰分泌を抑えるアトロピンと、筋肉の麻痺を防ぐプラリドキシムを充填した自動注射器2本がセットになったものだ。

 毒を使う者は必ずその解毒剤も持っている。それを手に、すぐさまゴルトの元へ戻る。


「映画でしか見た事ねぇけどよ」


 いかにも頼りない台詞を吐きつつ、彼女の太腿の外側筋肉部分に二本の針を続けて刺す。

 ほっとしたと同時に、そこで降夜の意識も途絶えた。


 『黄金屋敷(ゴルデンハオス)』は焼失した。


 ゴルトは致死性の神経ガスにやられたにも関わらず、死を免れた。降夜の処置が効を奏したようだ。

 しかし後遺症は免れ得なかった。両足に麻痺が残ったのだ。

 はじめのうちは腕も、顔も、目玉ですら動かしづらかったという。奇跡的に舌は前と変わらず動かせるぞと彼女は笑ったものだ。


「……父のように指一本というわけにはいかなかったな」


 突然声をかけられ、降夜は我に返る。


「な、何言ってんですか」


「わたしがこんな状態だ。ゴルト派の縮小はやむを得んだろう。いや、消えたようなものだ」


 馬鹿みたいだ、と彼女は息をついた。一人で戦争するなんて言って。周りには誰も居なかったのに。


「だが、わたしとて息絶えるわけにはいかない」


 幸い上半身はだんだん動くようになってきたからなと言う。


「銃を撃つことはできる」


「ミサ……」


 もう止めろ。力なんかにこだわるなと言うように降夜は彼女の痛ましい姿を見詰める。

 まだそんな事を言ってるのか。静かに治療に専念しろよと言いかけるが口を噤む。彼女が諫言を受け付けるわけもない。


「あのクソ餓鬼はどうした?」


 ゴルトの口調が変わった。小さな真霧が隠れてやしないかと降夜の背後に視線を投げるが、そこに少女が居る筈もない。


「おい、まさか……?」


 降夜の暗い表情に、ゴルトの声が凍った。


「……行方不明なんだ」


「何故だ? 警察には?」

 降夜は首を振る。

「警察も抗争に巻き込まれてひどい状態になってる。とても機能してないんだ」


 言われた通りに真霧が警察署に逃込んだとしても、あるいはその辺りをうろついていたとしても、無事であればほとぼりが冷めた頃に降夜の部屋に戻ってくるだろう。

 しかし1週間、彼女からは何の連絡もない。もちろん、シルヴァー+クロイツに関する情報もない。


「そうなのか……」


 あの火災、あの銃撃戦、街を巻き込んでのテロ行為──。少女の身に何かあったとしてもおかしくはないだろう。



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