その目(1月7日)4
「あの時は普通の宅配業者と思ったのよね、ライム」
「雨が降ってたし顔までは見てないわよね、レモン」
他に何か気付いたことある? との質問に、2人は声をそろえて「別にー」と答えた。
ふざけた双子ね。何がライト姉妹よ。
女刑事が煙草の灰を床に落とした。Kの眦が吊り上がる。
「後の方はボクが紹介します。まずは『ネーベン・ガッセ』が誇るストリッパーの樹楽。28歳」
店長に大声で年齢を言われ、樹楽は一瞬顔を顰めた。
同時に全員の視線が彼女に集中する。正確には、シャツから半分はみ出ている豊かな胸に。
それを悟って樹楽はさり気なく胸を揺らしてみせた。
「な、何カップっスか?」
生唾を飲みながらレオが尋ねる。
「Fだよ」
ホゥ、と唸った脱色頭をガーネットの握り拳が見舞った。
「ボク以外の従業員はこのライト姉妹と樹楽さん、それからラッパーのカンナさんだけです」
カンナさんという言葉とともに、全員の視線が床に落ちる。
いたたまれなさを感じたのか女刑事は白々しく店内を見回し、それからおもむろに店員の顔を眺めて最後に溜め息をついた。
どいつもこいつもマトモじゃなさそうね、という思考がありありと顔に出ている。
「時間が早かったからお客様はそれほどいらっしゃいませんでした。皆さん、常連さんばかりですよ」
客の方も、これもまた……。
ガーネットの溜め息が深くなる。どいつもこいつも見るからに胡散臭い。
「こちらが医師咲良」
正確なドイツ語の発音でKが、客の一人を紹介する。
舞台によじ登って樹楽と一緒に踊っていた若い男だ。
「美容整形医です。言いにくかったらドクター咲良でいいよ」
馴れ馴れしい口調。麻薬が抜けていないのか、目元はトロンと濁っている。
相当マイペースな人間のようだ。
嫌いなタイプなのだろう。女刑事は顔を引き攣らせて後ずさった。
ドクター咲良の双眸は派手なピンクだ。さすがにそれは天然のものではあるまい。カラーコンタクトだと分かる。
「女刑事さんは何歳なの?」
「な、何よ。何でアンタにアタシのトシを言わなきゃなんないのよ」
「えーっ、いいじゃーん?」
ドクター咲良の不躾な態度に、ガーネットのこめかみが引きつる。
レオがそんな彼女の背中を無遠慮につついた。
「そんなヤツほっといたらいっスよ。ほら、あとの一人はそこの傷だらけの大っきい人っスね」
「そ、そうね。アナタ、女ラッパーとはどういう……?」
暗い緑の目がガーネットを真っ直ぐ射抜く。女刑事はたじろいだ様子だ。
「オレは、ブラッド・ヴェルク。Kの兄で、25歳だ。日本人とドイツ人のハーフ。リュックザイテ警察署所属の特殊部隊に勤務していた……さっきまでは。それから──」
ブラッドは静かに続けた。
「カンナ、だ」
「え……?」
「女ラッパーじゃなくて、カンナだ」
物静かで辿々しい口調は、しかし凄みを帯びている。
コクリと頷くガーネットを、彼は続きを促すように見詰めた。
「な、何よ」
「だからさっきの話……『5』の事ですよ」
Kが口を尖らせて説明を求める。
急遽、臨時休業の札を出した店内。そこにいる全員がガーネットを注視していた。
「そ、そうね。ええ、分かってるわよ……」
何本目かの煙草に火をつけて、彼女はゆっくりと椅子に腰掛けた。




