ガーネット(1月11日・1)3
「ガーネットさん、ありがとうございました」
真霧が深々と頭を下げる。そのまま去り行こうとする降夜の背に、ガーネットは強張り掠れた声を投げた。
「ブラッドを殺そうとしたのは『5』殺人事件の犯人なの。彼女たちは武器弾薬の売人だった。つまりマフィアがバックに居たってこと。そこから彼女たちの元に爆発物が大量に流れていたのよ」
ガーネットは震える手で煙草を探り、火を点けた。
一本吸うまで待ってよ。そう言う彼女の様子があまりに弱々しいので無視する事も出来ず、黒ずくめの男と真っ白な少女は道端に取り残されたように立ち尽くす。
「そのマフィアってのはゴルト派よ。間違いないわ」
暫くの無言の後、煙と共に女刑事は吐き捨てた。不意に出たその名に、降夜は微かに背を震わせる。
「そう、アンタが昨日連れてた女よ。あの女を引き渡して」
そう言ってガーネットは先程、レオによってポケットにねじ込まれた百ユーロの束を取り出した。
「依頼料よ」
降夜の手に押し付ける。お願いよ、と懇願する目は真剣そのものだ。
「別に殺そうなんて思ってないわ。責任の所在をはっきりさせたいだけ」
「そ、そうは言っても……。ミサは出て行ったって話だし」
歯切れが悪い。降夜は札束を手の中に持て余すようにして俯いた。もう片手の爪を噛む。
返答に窮して、全く別の事を考えてみたり。
「い、いつもより爆発が多いな」
確かに、話している間に数発の爆音が遠くに近くに響いていた。ガーネットが複雑に顔を歪める。
「今朝方、抗争が勃発したわ。始まったのよ。ゴルト派とキング派の全面戦争が」
その言葉に、降夜は街へ走り出した。
※ ※ ※
「降夜さん、どこへ行くんですか」
背後から真霧がおずおずと声をかけてきた。少々動きの遅い彼女は小走りで息を切らして付いて来ている。
それに気付いて彼はようやく立ち止まった。と言っても少女に合わせたわけではなくて、目的地に辿り着いたからだ。
行き付けのバー『シリアルK』──酒だけでなく食事のメニューも豊富なので気に入っているのだが、そこは未だ扉を閉ざしていた。
「ついてねぇ。やっぱり潰れんな、ここ」
もしかしたら街を巻き込んでのマフィアの抗争に備えて休業しているのかもしれない。
実際こんな時期だ。特別な理由でもなければ戸締りして家の中に篭っているのが普通だろう。
今だって、往来にも関わらずあちこちで派手な銃撃戦が展開しているのだから。
こんな時に街を──しかも女の子を連れて丸腰で歩き回るなんて正気の沙汰じゃない。分かってはいるのだが……。
「ついてねぇ……」
でも仕方ない。ならば何処へ行こうか? そこで彼は動きを止めてしまった。
考えたらこの街に知り合いなんて居ない。従兄弟と、あとはせいぜい腐れ縁の女刑事が居るくらいだ。
麻倉はある意味最も安全な場所である留置場に居るし、ガーネットを頼って再び警察署に戻るわけにもいかない。
折角出て来たばかりなのに。第一彼女とは顔を合わせ辛い。
だからと言って自宅に戻る気にもならなかった。
そうして彼等はこうやって街をさ迷っているのだった。『シリアルK』が休んでいて、それで万事休すというところが少々情けない。
え、僕はこの街に来て何年になるんだっけ? なのに仲が良いのは何かと問題のある従兄弟だけだなんて。降夜は爪をガシガシ噛む。




