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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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ガーネット(1月11日・1)1

 ガーネットは溜め息をついた。

 目の前に居るのは、極端に色素の乏しい一人の少女。大きな眸に溢れんばかりの涙を湛えて、じっと彼女を見詰める。


「でもね、真霧ちゃ……」


「悪いことだと分かってます」


 でもお願いします、と真霧は深々と頭を下げた。

 その動作の合間にもきょろきょろ周囲を見回して、かなり挙動不審気味である。

 小さなリュックを大切そうに胸の前で抱え、梃子でもここを動くものかという決意がありありとその表情に表れていた。


「三万ドルと三万ユーロあります」


 裏街の警察署ロビーは検挙されたチンピラと警官の騒ぎで常に騒然としている。

 それでも人に聞かれるのを恐れるように、真霧は小さな声でそう言った。

 リュックを持つ両手にギュッと力が込められる。その中に入っている物が何なのかは容易に推察出来よう。


「三万ドルと三万ユーロ、ね……」


 つまり六万ユーロ弱(九百万円超)……頭の中で素早く計算して、ガーネットは唸り声をあげた。安月給の刑事の身では、確かに心動く金額ではある。


 つまり少女はこの金で降夜の釈放を要求しているのだ。

 つまり保釈金という名目の賄賂である。


 頭の良い子だ。この街では説得やお願いは金銭なしでは通用しない。

 警察などの公的機関ではその傾向は著しく顕著である。堂々とマフィアと結びついて公権を濫用している刑事だって少なくない。

 ガーネットのように頭の固い刑事の方が稀なのだ。


「いいじゃないスか、先輩」


 背後からの声に、ガーネットは文字通り飛び上がった。

 やましい事がありますと宣言しているような態度でおずおずと振り返る。


「アラ、レオじゃない」

 用心したようにリュックを抱き締める真霧に、彼女はニマッと気味の悪い笑顔を向けた。

 真霧が怯えたように半歩後ずさる。

 レオの腕を取って引き寄せ、その肩に抱き付く女刑事。

「レオはね、ショットガンの名手なの。アタシたち、昨日から付き合いだしたのよ」


「はぁ……」


 そんな事、別に聞いてないし。この人もあまり頼りにならないかな──真霧の表情に落胆の影が差す。

 しかし他に頼れる人は居ない。粘り強い交渉を行うしかないと再び口を開きかけた時だった。


 レオの手が伸びて、真霧の手から大金入りのリュックを奪い去ったのは。


「か、返して!」


 日頃おとなしい少女は、しかし今回ばかりは顔を真っ赤にしてひょろりとした体格の新人刑事につかみかかる。


「痛て、やめろって。盗りゃしないよ。大丈夫だってば」

 それからガーネットに向き直る。

「要はこの金で昨日のバカなテロリスト……あいつを釈放してやりゃいいんしょ?」


 風向きが変わったと真霧は悟る。しばらく黙って様子を見る事にしよう。


「アタシは賄賂には関わりたくないの。でも真霧ちゃんが可哀相で……。この子、戦災孤児なのよ。アタシの両親もチェルノブイリ原発事故で故郷をなくしたから、とても人ごととは思えなくて。アタシ、ユニセフに寄付したりもしてるのよ。それと言うのも……」


「じゃあいいじゃん、いいじゃん」


 ガーネットの話は軽く流して、レオは百ユーロの束を彼女のジャケットのポケットにねじこんだ。

 自身も同じだけズボンの尻ポケットに入れてから、真霧とガーネットを一瞥する。


「担当警官と留置所の見張り当番に話つけてくるよ」


 少々不安な思いで真霧は女刑事を見上げた。

 本当に大丈夫なの? 心配で表情が大きく歪む。



 レオが行ってしまって、ガーネットは途端煙草をスパスパ吸い始めた。


「大丈夫。上手くやってくれるわ。彼、頼りになるでしょ。どっかのバカとは大違いだわ」


「……ごめんなさい」


 どっかのバカ──つまり降夜の為に、何で自分が謝らなきゃならないのか。少々理不尽な思いで真霧は俯いた。

 それにしてもレオが居なくなってからのガーネットの豹変ぶりには驚きだ。

 尤も、こちらの彼女の方がずっと素に近いという事はよく分かっているが。


 大人の女の人ってちょっと怖い……。

 真霧は小さな溜め息をついた。


 その点、ゴルトは誰に対しても同じ態度だったな。臆する事なく堂々としていた。改めて憧れの思いを抱き、直ぐに彼女が同年齢であった事を思い出す。

 途端、ズンと落ち込みが襲ってきた。何で自分はこんなに小さくて痩せてるんだろう……。


「真霧ちゃん? どうしたのよ」

 留置場は地下にある。その階段の手前でガーネットが少女の肩をつつき、真霧は我に返った。

「大丈夫? レオが話つけてくれたから、アタシ今からアイツを連れてくるわ。ここで待ってなさいよ」


「は、はい」


 不安な思いで、真霧は女刑事の背中を見送った。


  ※  ※  ※

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