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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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35/55

ドクター咲良(サクラ)(1月10日・3)5

 それならばと、彼らは警察署の裏手に回った。

 それだけの仕事をたった2人でこなさなければならないなら、それなりに頭を使う必要がある。


「何だよ、降夜。何するんだよ」


 裏口前に駐車してあるバギータイプの車の周りをそわそわうろつく従兄弟に、咲良は苛付いたように声をかけた。彼が車好きなのは知っているが、何も今こんな所で……。


「うわ、コイツFAVスコーピオンだ。超高っけぇ車。何で警察がこんなの使ってんだよ。ムカツクぜ」

 一人でブツブツ言っている。

「ちょうどいいか、これにしよう。うん」


 スコーピオンの横に座り込んでしまった。そこで鞄を開けている。咲良は焦った。


「な、何やってんだよ、降夜。こんな所で……」


「まぁ見てろって」


 爆発物解体処理を請け負う降夜の手元には、必然的に起爆装置を解除した爆弾が大量に残る。

 簡単な細工を施せば、それは当然使用出来るわけで……。


「起爆装置セット完了。5分後にスコーピオンコイツが爆発する。署内は混乱するだろ。その隙をついて僕らは表玄関から中に踏み込むんだ」


「スゴイ。降夜、天才!」


「急ぐぞ。僕たちが爆発に巻き込まれちゃかなわない」


 それは完璧な作戦だった──降夜の脳味噌が、しかも短時間で考えたにしては、という定冠詞が付くが。


 爆発で混乱している警察署内を、非武装市民が走り回ったとて気にする者など居ない。

 もし咎められたら知り合いの女刑事の名を出せば済む事だ。忘れ物を届けに来ました。うん、これでいい。

 自分の頭の出来に酔いしれるように、降夜は300秒を数えた。


「298、299、ドッカン。よし、行け!」


 興奮した咲良が奇声を発する。2人は表玄関からリュックザイテ署内へ飛び込んだ。

 瞬間、降夜は違和感に気付く。

 あれ、おかしい。裏からの爆発音が聞こえねぇな?

 おい、ちょっと待てと制止する声も空しい。従兄弟は突然予期しない行動に走った。


「手を挙げろ! 全員動くな! よくもおれをとっ捕まえてくれたな。この復讐は必ず果たしてやるからな!」


 オラオラ言いながらどこに持っていたのか、銃を乱射し始めたのだ。


「よ、止せ! この馬鹿が!」


 しかし興奮状態の彼は聞いちゃいない。実に気持ち良く絶叫しながら、天井に弾丸をぶち込んでいる。

 署内に居た警官は凄まじい悲鳴と共に混乱状態に陥った。ドイツ語とチェコ語と英語が入り混じった悲鳴と悪態。


 もう30秒数えて、それから降夜はようやく悟った。


 ──失敗だ。


 爆発音はしない。不発だったのだ。

 同時に咲良の銃も唸りを止めた。こちらは弾切れのようだ。


 一瞬、顔を見合わせる従兄弟達。お互いの表情に苦いものを見て取った瞬間、2人は後頭部に凄まじい衝撃を覚えた。


「床に手を付け!」

 言われる前に、顔面から床に落ちている。何人もの制服警官が駆け寄り、彼らの両手を縛り上げ拘束した。

「テロリスト2名、確保しました!」


 殴られ蹴られ、瞬く間に留置場に放り込まれた。

 数時間の尋問の後、容疑は一応晴れたようだ。テロリストではなく、こいつ等はただの馬鹿なのだと。ガーネットの名前を出したのも一応効果はあったようだ。


 留置場は満室状態なので、彼等は狭い独房に2人閉じ込められた。

 全身打撲に耐え切れず、降夜は汚い床に転がった。側で咲良も泣いている。


「こんな、こんな屈辱は初めてだ……」


 主犯格という事で、取調べも相当キテたらしい。

 誰のせいだよ、この馬鹿が。聞こえないように降夜は毒づく。


「いつか必ず復讐してやるからな。警官全員許さない……」


「まだ言ってんのか。もう止めとけよ。懲りただろそれに今のは完全に自業自得だろ」


 咲良は「うっうっ」と嗚咽を漏らした。


「おれはマフィアと知り合いなんだ。絶対リュックザイテ署を、いつか……」


 執念深い男だ。次は1人でやりやがれ。まさか知り合いのマフィアってゴルトの事じゃねぇだろうな。どっちにしろ──。


「僕だけは巻き込むなよ」


 こんな馬鹿げた騒ぎはもう御免だ。


「何でだよ。ゴルトは降夜の言うコトなら聞くだろ。何せ父親代わりなんだから」


「お前、いい加減にしろよ」


 散々痛めつけられながらも全く懲りてない従兄弟のふてぶてしさに、さすがの降夜も言葉を失った。


「でもゴルトと降夜って意外と似合うかと思うよ? 何やかや言って、結局降夜はややMだし、ああいう女の子にふん縛られて命令されるのが心地いいんでしょ」


「はぁ?」


 何だよ、こいつの言い草は。呆れて物も言えない。いちいち相手してられっかよ。降夜は無視を決め込んだ。


「でもさ、マフィアの女ボスの情夫なんて一生ラクして暮らせそうだよなぁ」


 ──その一生、ってのは極短いものになるんだろうよ。


 従兄弟が下らない話ばかりするものだから、彼女の事を思い出してしまった。

 ゴルトは今頃、怒り狂っているに違いない。あるいは呆れ果てて『黄金屋敷(ゴルデンハオス)』に帰ったか。それがいいと思う。彼女と自分では住む世界が違いすぎる。


 ゴルトは正しくて前向きで偏っていて傲慢で、そして強い女。闘う女だ。

 来るべき『戦争』は決して聖戦ではないが、それでもそれに備えて着々と準備に励んでいる事だろう。


 銃をぶっ放して、まさか自分を助けに来るなんて事はあるまい。うん、それは絶対にない。

 惨めな期待を振り払って、降夜は眠りについた。


 悲惨だ。激疲れの1日が、まさか留置場で終わるなんて……。

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