ドクター咲良(サクラ)(1月10日・3)4
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真霧、ゴルト、警察からの爆破物処理、それからドクター・咲良──僅か半日足らずで次々舞い込んだ。
かつてない依頼ラッシュだ。きっと悪い事が起こるに違いない。
降夜がネガティヴな思考に囚われているというわけではない。
ゴッド・シュヴェルツェンに住む者にとってそれはごく常識的な判断であった。
──リュックザイテ署爆破計画。
降夜と咲良は裏街の路地裏から警察署の薄汚れた建物を見上げていた。
賄賂にまみれた警官が出入りしている姿が見える。
「行き当たりばったりにも程がある。警察ここを爆破するってか?」
呆れつつも、こうも思う。でもちょっと気分いいかもな。ざまぁ見ろ、だ。
この街で、警察に好感情を抱く人間は居ない。
もっとも仕掛けるといっても小型のものを人気のない所にだ。怪我人を出してはいけない。従兄弟が言うように「脅かすだけ」だ。
爆破物処理に使う鞄。中には様々な工具が入っている。
そいつを開けかけた時、隣りから咲良の手が伸びて降夜の動きを止めた。
「何だよ、爆破するんだろ。お前が言い出したんだぞ。今になって怖気付いたか?」
いや、そうじゃなくて。
微かに躊躇った様子を見せる咲良。
「何だよ」
黒ずくめのボディーガードとヤブの美容整形医。
そんな2人が物騒な物を抱えて警察署の前に陣取っていては、5分と経たずに拘束されるのは間違いない。
思い付きを実行に移すなら、早々に建物外側に火薬を敷き詰めて火を点けなければ。
2人で手分けすれば3分で行動は完了するだろう。警察署内に入る必要なんてない。
「でも……」
咲良の躊躇いが理解できない。さっきまで興奮した様子で「必ず復讐してやる! 爆破してやる!」と叫んでいたではないか。どうしたってんだよ。降夜は爪を噛んだ。
「いるんだよ……」
「え? 何だよ、聞こえない」
ひどく言いにくそうに咲良が切り出した。
「中に人がいるんだよ」
「それがどうした。そりゃ昼間なんだから中には何人も警官がいるだろ」
奴等に同情する必要はない。暴力に賄賂。それくらいの仕打ちを受けて当然の連中だ。
別に殺すわけじゃないんだ。火薬の量は調整してやる。
ちょっと驚かせてやるだけ。奴らが慌てるさまを見れば、日頃のウサも晴れるというものだ。
ほら、さっさと爆破の準備を……。
なのに従兄弟は鞄の蓋に両手を乗せて、それを開けさせようとはしない。
「違うんだ、降夜。ブラッドが……成り行きで連れになった奴が捕まってるんだ。おれは直ぐに釈放されたけど、アイツはまだいると思うんだ。気の毒なくらい人が良くて、貧乏籤引くタイプの奴なんだ。アイツを助けて、それから建物を爆破する。頼む」
「おいおい、聞いてねぇぞ」
降夜のこめかみが引き攣った。
単に爆発物を仕掛けるだけならともかく、内部に潜入して拘束されている人物を助け出し、挙句に建物を爆破するなんて。
そんなのは特殊部隊の仕事だろうが。僕はただの爆破物処理係だ。
「頼むよ、降夜」
咲良の目が潤んでピンクコンタクトが流れかけ、彼は慌てて顔を覆う。
降夜は大きく溜め息をついた。ああ、本当についてねぇな……。
「割増料金だぞ」
降夜は呟いた。
結局こうだ。成り行きでズルズルと一番の厄介事に自ら首を突っ込む羽目になってしまった。
泣いていた筈の従兄弟はパッと顔を輝かせて笑顔を見せる。
そのブラッドという奴は知らないが、一番の貧乏籤は僕だろうがと心に叫んだのは言うまでもない。




