ドクター咲良(サクラ)(1月10日・3)3
「何だ、てっきり降夜のコト好きになっちゃって、それで付きまとってるのかと思ったよ。よくあるパターンだろ。おれ、キライじゃないよ。それなのに……」
そっか、お父さんか。クスクス笑う咲良を、降夜とゴルト両名が睨み付ける。
「好きになっちゃってだと! 有り得んだろう」
「うむぅ……」
別にショックなわけじゃない。しかし、彼女に言い切られて降夜は遂に撃沈した。
そんなわけだから、彼の思考にささやかな復讐心が芽生えたのも無理からぬ事だろう。
その対象がゴルトではなく、従兄弟だったのが彼の現在の心境を表している。
「で、麻倉? しばらく見なかったけどどうしたんだ? 留置所にでも入ってたのかよ」
「ひっどいなぁ、降夜………………」
咲良の笑顔が凍り付いた。沈黙が長い。
「おいおい、本当かよ」
ピンク男は俯いてブツブツ呟き始めた。
さっきまでの明るさはどこへ行ったか。床をじっと見詰め、かなり陰湿で執念深い態度だ。
「ついでみたいに捕まって、そのまま留置所に拘束されて酷い目にあったんだ。今まで何回も捕まったりしてるけど、こんな濡れ衣は初めてだ! クソッ、あのヤニ中の女刑事め、失敗してパトロール班にでも回されりゃいいんだ」
1人で毒づいている。一変したその態度に、ゴルトと真霧は完全に引いていた。
「降夜、気持ち悪い。こいつを追い出せ」
「いや、そうは言っても……」
小声でのやり取りを、咲良の絶叫が引き裂いた。
「アイツら、絶対復讐してやる!」
そして降夜に詰め寄った。
「警察署に爆発物仕掛けてやる。このおれをコケにした復讐は必ず果たしてやるからな! 降夜、手伝ってくれ。その為に来たんだ。これは依頼だ。ちょっと脅かすだけでいいんだ。誰も怪我しない程度で。ちゃんと金を払うから」
奇妙な目付きになってしまった従兄弟を見ないように、降夜は口をパクパク動かした。
「い、依頼料は現金でしか受け取らない。ユーロかドル……」
断る際の決め文句。完全に棒読みだ。
馬鹿馬鹿しい。何で僕がそんな事に付き合ってやらなきゃならないんだ。それでなくともグダグダややこしい事になってるのに。
余程虚ろな目をしていたからか、眼前に札束を差し出されて降夜は一気に我に返った。
「そう言うと思った。ほら、3万ユーロ(約5百万円弱)あるよ。お望みの現金一括前払い。どうだ!」
「どうだってお前、こんな大金をしょうもないことに……」
降夜は無意識に金を受け取っていた。
うん、悪くない。咲良がちまちま金を溜め込んでいるのは知っていた。
いいじゃねぇか。この機会にふんだくってやろうじゃねぇの。
それにこれはややこしいマフィア絡みの仕事を断る良い口実にもなる。
彼は前言を撤回した。
札束を金庫に、そして爆破処理に持参する鞄を抱えさっさと玄関に向かう。
「き、貴様、どこへ行く? まさかわたしの依頼は断って、こんな馬鹿な仕事は受けるつもりか!」
ゴルトが憤慨するのも尤もだ。炸裂する銃声を背後に、彼ら2人はビルを飛び出した。
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