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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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ミサ・ゴルト・クレーバー(1月10日・2)5

 裏を返せばそういうことだ。ゴルトもそれは十分すぎるくらい自覚しているのだろう。思いと立場が彼女を実年齢よりずっと大人びた姿に見せているのだ。


「貴様、警察機関(あいつら)の下請け仕事なんてしてないでわたしの元に来ないか? その腕があるならこの世界でやっていけるだろ」


「……それは遠慮します」


 丁寧に断ってから、降夜は傍らに居るゴルトにちらりと視線を転じた。

 この女──いや、この少女、意外と複雑で危うい立場に居ると見受けられる。暴力と傲慢で、だからこそ鎧っていかなければ生きられない社会。しかしそんな世界が果たして彼女に相応しいか。


「早く辞めることです、ミサ。マフィアのボスなんて、気の強さで務まるもんじゃない」


 ゴルトが息を呑む。痛いところを突かれたという表情か。


「ボ、ボスと呼べ。貴様……」


 それには返事をせず、降夜は手を止めた。


「これで良し」


 起爆装置解除完了。


「ミサ、もう帰れ。僕はマフィアの依頼は受けない。厄介事に巻き込まれたくないからな」


「なに……?」


 打ち解けかけていたゴルトの表情が一瞬のうちに強張る。


「僕は裏街のただのボディーガードだ。マフィアの女ボスを守る自信はないよ」


 2人の周囲を取り巻く空気が凍えた。


「貴様……、頼んでいるのではない。このわたしが命令しているのだ。貴様に断る権利はない!」

 彼女の右手が翻った。射抜くように鋭い銀が、降夜の額を真っ直ぐに捉える。

「わたしに従え、降夜!」


 鋭い殺気が迸り、降夜は悟った。

 この女、本気だ。返答次第によっては今この場で僕の頭を撃ち抜くだろう。


 泣き喚いていたガーネットがぎょっとしたようにこちらを向くのが視野の端に捉えられる。

 しかしあてにはなるまい。新米刑事共々その場で硬直しているのが分かる。


 ──わ、分かった。依頼を受けよう。


 降夜は頷きかけた。一旦マフィアと関わってしまったら、最終的に待っているのは非業の死のみであろう。

 だが、何もそれに向かって急ぐ事はない。今、路上で射殺されるなんて、こんな不本意な死に方は御免だ。取り敢えず時間を稼ごう──そう考えたのだ。


 しかしその時だ。白い少女がすたすた歩み寄ってきたのは。


「ま、真霧ちゃん、下がってろ。この銃が見えないのか」


 少女は目を細めてゴルトの手元をじっと見ている。

 ああ、この子目が悪いんだっけ。


「真霧、貴様も見ていろ。これは呪いの銃だ。狙った男は必ず射殺する!」


 憎々しげに呟いてゴルトが安全装置を外した。指先に力を込める。


「よ、よせ。ミサ」


「馴れ馴れしく呼ぶな、クソ野郎! うっ、何をする……」


 ゴルトがふらついたのは、直ぐ側までにじり寄って来た真霧がいきなり彼女の腕に飛びついたからだ。


「よせ、放せ!」


「うぅ……」

 少女は森に住む小動物が木にしがみ付くように、体格差のあるゴルトに付いて離れない。

「呪いの銃じゃ……ナイ!」


 やけにはっきり、少女が叫んだ。


「呪いの銃じゃない。それはシルの……シルの銃です。返して!」


「何だと? ちょっ、放せ! この……」


 ゴルトは暴れるも、しかし真霧は益々力を込めてその腕に取り付く。

 何とかしろ、というように女マフィアに睨まれ、降夜は静かに後ずさっていた足を止めた。


「いや、何をどうしろと……」


 突然勃発したこの妙な争い。出来れば関わりたくないんだけど。それが本音だ。


「何とかして、降夜さん!」

 真霧にまで睨まれた。

「コレ、シルの銃なの! シルがいつも持ってる……自分用の特注品で、絶対に人にあげたりしないの」


「……そう言われても」


 シルヴァー+クロイツはマフィアにさらわれたらしい。それは恐らく彼の技術(ウデ)を狙っての事だ。

 この街のマフィアはキング派とゴルト派に分かれている。


 単純に考えてゴルトがシルヴァー+クロイツ誘拐に関わっている確率は半分となる。

 更にシルヴァー+クロイツ秘蔵の銃を持っている事──これが事実ならば、誘拐犯がゴルト一派である事は確定的と言えよう。


 ──ややこしい事になってきたぞ。


 降夜の前で2人の女が争いを始めた。


「シルに何したの! コレ返して!」


「痛い! 放せ、クソ餓鬼が!」


 髪をつかみ、取っ組み合いながら銃を奪い合っている。


「やめろよ、危ないだろ。2人と……も……」


 タタタッ──。軽い銃声が耳を刺す。降夜の髪の毛が数本、風に舞った。


「なに……?」


 銀の銃が煙を吐いている。それを抱えながら、2人の女が呆然とこちらを見詰めていた。

 争っているうちにどちらかが引き金を引いてしまったのだ。

 幸いな事に、というべきか。銃弾は降夜の顔面すれすれを掠め、虚空に消えた。


「僕を……」

 声が掠れた。

「僕を殺す気か!」


「ごめんなさい」


 真霧が素直に謝った。

 ゴルトは謝りはしなかったが、複雑に表情を歪めて背を向ける。


「貴様も機敏に避けろ、これくらい。ほら、帰るぞ」


 そんな無茶な、と逆らいたかったがグッと堪える。

 明らかに降夜の家の方角へ向かって女ボスは歩き出していた。


 ──信じられねぇ、この女……。


「ごめんなさい、降夜さん。怪我しなかった?」


 すまなさそうにこちらを見上げる真霧に、引き攣った笑顔を向ける。


 ──この子も信じらんねぇとこあるな。


「帰りましょう、降夜さん」


「うん。え? 帰るってうちに? エット……何であなた方も一緒なのかな?」


 さり気ない皮肉を、彼女達は聞いちゃいない。

 2人の依頼は絶対に断るぞ。あらためて深く決意して、降夜は帰路についた。

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