その目(1月7日)3
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「女のラッパーってのも珍しいわね」
煙草の煙を吐きながら、女が言った。
赤の衣服に身を包んだ、20代半ばとおぼしき派手な印象の人物である。
担当刑事のガーネットよ、と彼女は名乗った。
30分前、薄緑の「眼」が届き『ネーベン・ガッセ』はざわついた。
すぐさま通報すると、この街では珍しいくらい早くに事件の担当者という女刑事と、その相棒の新米刑事がやって来たのだ。
説明を求めて食い入るように自分を見つめる店の一同を見回して、ガーネットはせわしなく煙を吐き出す。
「これで連続殺人になったわけね」
「さ、殺人って……その眼の主が死んだとは限らないでしょう」
黙りこむ兄を気遣うように弟が口を開く。
「それにその眼がうちの歌手のカンナさんかどうかも……」
分からないでしょう、という語尾は弱々しかった。
薄い緑色が印象的な眼球。
ゴット・シュヴェルツェンでこの眸の持ち主は、Kが知る限りカンナだけだ。
「連続殺人って?」
クレイジーダンサーの樹楽が身を乗り出す。
先程まで舞台で踊っていたためタオルを首にかけているが、汗はとうに冷えてしまっただろう。その表情は曇っていた。
刑事が連続殺人というからには前に少なくとも1人、被害者が居る事になる。
その場にいる全員に思い当たる節が、あった。
「まさか、ミツキ……?」
ああ……。新人刑事のレオが頷く。
「ホラ、先輩。こないだの被害者もこの店のコでしたっけね」
脱力するような喋り方だ。
馴々しくされて頭にきたらしい女刑事がレオの脱色頭をゴンと殴る。それからフウッと煙を吐いた。
「アタシたちは犯人を『5』と呼んでいるわ」
フュンフ──言うまでもなく、ドイツ語で数字の5という意味だ。
彼女は店内を睨み付けるように視線を走らせる。
「ミツキといったかしら。この間死んだストリッパーが『5』第一の被害者と考えられるわ。つまり、この店に居る全員が容疑者って見解になる」
悪いけど、と彼女は付け加えた。
「ど、どういう意味ですか。あなた、本当に警官ですか! どこの所属です?」
彼女の高圧的な態度に、Kが声を荒げて立ち上がる。
その腕を叩いて諌めたのは、他ならぬ兄であった。無口な兄は、傷だらけの顔を歪めて女刑事を見詰めている。
「わ、分かってるわよ。ちゃんと説明するわ」
ガーネットは少し怯んだように言葉を詰まらせた。
ブラッドの強面、それから真っ直ぐなその視線が痛い。
「でもその前に、ここに居る全員の素性をはっきりさせるわよ」
一方的に言い切った。鋭い視線は、まずは黄色の小男にささる。
「アンタが『シリアルK』のマスターのKね。20歳。日本人とドイツ人のハーフで、こっちで生まれ育った。Kって何? 本名は? どうせ川口とか木村とかいうんでしょ」
「な、何を言うんです。あなた随分独善的ですね。それに『シリアルK』とは店の通称で、本当は『ネーベン・ガッセ』という名が……」
しかし女刑事は聞いちゃいない。
今度は小声で不満を言い合っていた双子を指差す。
「ライム・ライトとレモンライト。17歳の双子でレズビアン。『シリアルK』のウエイトレス。女ラッパーの眼球を受け取った」
双子はまず声を揃えて「ライト姉妹でーす」と恒例となっている自己紹介をした。




