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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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ミサ・ゴルト・クレーバー(1月10日・2)4

「アンタのその飄々とした態度が気に食わないわ!」


「すいませんね」


「アンタを猥褻容疑で逮捕する日を楽しみにしてるわよ」

 口元を引きつらせて、それから彼女は口調を変えた。

「それはそうと、あれが現場よ。お願いね」


 裏道の一角。ガラクタやゴミが転がる道に車が一台停まっている。そこが今回の現場であるらしい。

 その横に1人、新米刑事が立っているだけで、今一つ緊迫感のない空気だ。


 操作能力皆無の女刑事は捜査で失敗する度に街の警備、しかもパトロール班が見付けた爆弾の現場保存及び処理業者への解体依頼を行うという下請け的仕事に回される事が多い。

 その解体業者である降夜とはこうやってよく顔を合わせ、軽口を叩き合う仲だ。


「それで? 例の事件は結局どうなったんだよ?」


「え?」


 手袋をはめ、防護パネルとメットを装着する。持って来た鞄を開けて仕事にかかる準備を整えながら、降夜。さして興味はない。昨日の夕飯は何だったかとでも尋ねるような口調だ。

 それなのに、だ。女刑事の様子がおかしい。突然両手で顔を覆った。まさか泣いている?


「ア、アタシってとことん男運がないわ!」


「ど、どうしたんスか。先輩」


 脱色頭の新米刑事が飛んできた。降夜が初めて見る顔だ。号泣するガーネットをあやすようにその背を叩き、新たな煙草に火を点けてやる。


「わ、悪いわね。レオ」


 せわしなく煙を吐いてから、彼女は「ああ、ブラッドがぁ」と再びしゃくりあげる。

 ああ、ダメっス、その話題。レオと呼ばれた若い男が降夜に目配せする。


「今さっきっスよ。『(フュンフ)』事件の関係者が爆死したんスよ。もうバラバラに飛んじゃって肉片集めて検死するって話っス。それが……」


 レオがちらりと女刑事を見やる。


「その中の1人が今病院にいるんスけどね。何か所も撃たれて大怪我して、生きてるのが不思議って状態らしいっス。かろうじて呼吸してるだけ、みたいな。先輩ホレっぽいから、何かその人のコト執念深く想ってたみたいで。その人、彼女いたのに」


 悲劇の内容よりも、彼女いたのにというところでますます激しく泣き出したのはガーネットの女心だろうか。


「アタシが最初に店内を捜索していれば良かったのよ! あの日もそうよ。あの人が行方くらましたってのに、マフィア絡みのテロ事件があってパトカーそっちに取られて。だからアタシは街中歩いて探し回って……」


「あー、ハイハイハイっとよ」


 喚くガーネットを新人刑事に託し、降夜は仕事に取り掛かる事にした。

 感情の起伏の激しい彼女には正直、付いていけない。


「さ、仕事仕事」


 いちいち報道にあがらないだけで、爆弾テロはこの街では珍しい事件ではない。

 マフィア間の対立が緊迫化する中、殊に最近は頻発している。

 警察は少ない人員の中から専用のパトロール班を作って対応している程だ。携帯用X線装置を使って、反応の出た所を爆破処理。

 爆破が難しい場合、こうやって降夜のような業者に解体を依頼する。


 車というのは元々機械の集合体なので、爆発物を仕掛けても発見されにくいという一面がある。

 降夜は複雑化したエンジンの中に小型爆弾を発見した。

 一見、車のパーツのようにも見える。

 だいたい街のチンピラが使用する爆弾はIED(即席爆破物)と呼ばれる、武器の弾薬を利用した単純な造りの手製爆弾が主だ。


「面倒臭ぇな」


 降夜は手袋の爪先を噛んだ。


「どうだ。出来るか?」


 彼が1人で作業に入った途端、ゴルトが側に寄って来た。

 マフィアである彼女は、一応警察関係者のガーネットとは顔を合わせないように離れていたようだ。


「わたし達がいくら仕掛けても、こうやって貴様に解体されては鼬ごっこになるな」


「あなたのとこで設置した爆弾ヤツですか、コイツ」


「いや、それは分からん。街のどこに仕掛けたかなど、いちいち報告なんてもらえないからな……」


 ゴルトが笑うのを、降夜はどんよりした暗い面持ちで聞いていた。まさしく鼬ごっこ。

 ここは彼女達が仕事を作ってくれるのを有難がるべきなのか。


「まぁ良い。お手並み拝見といこうではないか」


 軽い口調のわりに、降夜の手元を見詰める彼女の目は真剣だ。

 この現場から何かを吸収してやろうという意気込みが伝わってくる。

 それが降夜には少々、意外に感じられた。


「何でその若さで女ボスなんですか」


 ゴルトの肩がピクリと震えた。しまったと降夜は思わず身構える。しかしそれは女ボスという言葉に覚えた怒りというわけではなかったようだ。


「去年の抗争で父が死んだ。ファミリーを他人に渡すわけにはいかんだろう。だから1人娘のわたしが継いだ。誰にも文句は言わせない」


「手頃な親戚とか居なかったんですか。それによく古株の構成員が納得しましたね」


「ああ……」


 ゴルトの唇に微かな笑みが浮かんだ。苦くもあり、誇らしくもある。複雑な微笑だ


「父が偉大だったからな。その血統は絶対だ。ボスとして相応しい限り、奴等はわたしを立てるだろう」


 ──しかし一度失敗すれば即、首をすげ替えられる。

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