ミサ・ゴルト・クレーバー(1月10日・2)3
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あの銃撃で電話が生きてたのは奇跡だ。
それは久々の仕事の依頼だった。
銃撃で酷い有様の家をそのままに、すぐさま荷物を抱え外へ向かう。当然のように付いて来る女が2人。「帰れ」と告げたところで、彼女たちは聞いちゃいない。
「おい、降夜」
おいおい、早速呼び捨てかよ。
降夜は聞こえないように溜め息をついた。
マフィアだ何だ言っても、14歳の小娘だ。
降夜としては相手をする気にもなれなかったがこの女、空気を読む事も全く出来ない。銃を突き付けて傲慢に命令するだけ。
「話は終わってないぞ。どこへ行くか答えろ」
そしてこちらも14歳とは思えない未熟児チワワ・真霧も、おとなしいかと思いきや異様な執念深さで降夜に付き纏っていた。
「真霧の依頼が先だよね」
何だ、クソ餓鬼。貴様は黙ってろ! そうやってゴルトに怒鳴られミーミー泣きながらも、決して降夜から離れようとしない。
「ついてねぇな。すげぇ疲れる……」
取り憑かれたように背中が重く感じる。もう直ぐ目的地というのに、足取りも緩慢になっていった。
「ここからは本当に付いて来んなよ、あなた方」
変に丁寧なのは、敬うように喋らなければゴルトがキレるからだ。往来でいちいち発砲されてはかなわない。
「だから降夜、どこへ……」
──行く?
そう言いかけたゴルトの言葉が途中で消えたのは道の向こう、降夜の視線の先に女の姿を発見したからだ。
色のない街並みの中に、その女の赤いスーツが毒花のように鮮やかに映える。
早速、ゴルトが吠えた。
「貴様、わたしのガード中に女と会うとはどういう事だ!」
男の背中にグリグリと銃口を押し付ける。降夜は別の意味で憤慨を露にした。
「バカ! 誰があんなババァと付き合うかよ! 仕事だよ、ですよ。仕事の付き合いです」
「……そうか、仕事か」
不服そうながらも一応納得したのか、銃はしまわれる。
「貴様はどうなんだ? 若い女が好きか? それとも若い女は頼りないと思うか?」
「う……」
いきなりきた突拍子もない台詞に、降夜は言葉を詰まらせる。
14歳のマフィアの女ボスの肉感的な肢体に一瞬視線が泳いだ。特に大きく開いた胸元からはこぼれんばかりに乳房がはみ出ている。
「いや、でも人によるっていうか。頼りがいある若い女性もいるし。年とか性別とか関係ないのかなって……。うむ、いや、まぁ……女性の年齢は分からないって言うか」
自分でも何を言ってるんだか。
ヘラッと笑いかけた頬に平手が見舞ったのは一瞬後の事だ。
「誰がババァですって! アタシまだ27よ。アンタと1歳しか違わないんだけど」
やけに耳のいい女がツカツカとやって来て容赦なく降夜の顔を殴ったのだ。
道に唾を吐いてから、苛ついたように煙草に火を点ける。
「久々に仕事回してやったら、女連れで来るってどういうこと? しかも2人? アンタ、調子に乗ってんじゃないわよ」
女連れ、の所で彼女は降夜の後ろを睨んだ。
「もてるのねぇ。小指ないくせに」
嫌味ったらしく煙を顔面に吹きかけられて、彼は噎せた。
「指は関係ねぇだろ」
憮然としたように左手を後ろに隠す。
「アラアラ~上質な性生活のためには指は大切なのよ」
「何が上質なせ…、生活だ」
──この痴女が。
ボソッと呟いた降夜の言葉は、赤い衣服に身を包んだ彼女の耳には届かなかったようだ。
小指を絡めるのがイイたら何たら、自身の小指をジットリ見つめながら特殊な自論を展開している。
勿論、降夜+二人が聞いている様子はない。
ふたりの女のうち、背の高い方はスッと向こうに背を向けてしまっている。
もう1人の小さい方に視線を留め、赤の女は我に返ったように猥談を切り上げて、わざとらしく咳払いした。
「コホン。ま、真霧ちゃんじゃないの」
「あ、ガーネットさん」
こんにちは、と真霧は深々と頭を下げる。
「何だ、知り合いか?」
焦って尋ねた降夜に、ふたりがそれぞれに答えた。
「シルのアパートの下の階の……」
「うちのアパートの上の階の……」
「……ああ、そうなんだ」
脱力気味に首を振る。この街は誰がどこで繋がってるか分かんねぇ。
「アンタ、真霧ちゃんが可愛いからって、まさかこんな小さい子に……? それ、犯罪よ!」
いきなり大声をあげたガーネットに、否定の言葉を返す気力もない。
この女、発想が突飛すぎんだよ。
「確か連続殺人事件の指揮を任されたとか言ってなかったっけ。またヘマして爆弾処理に回されたのかよ」
彼女はうっと呻く。どうやら図星らしい。スパスパと煙草を吸う。




