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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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ミサ・ゴルト・クレーバー(1月10日・2)2

 再び口に銃口を突っ込まれ、降夜は自分の頭の悪さを後悔する事になるのだが。

 間髪いれず横っ面を、今度は平手で叩かれ彼は床に転がった。その腹の上に札束が放られる。


「ゴフッ!」


 精神的打撃がこたえたのだろうか、札を重いと感じたのは初めてだ。

 100ドル札の束。しかも新札──それはつまりヤバイ金という事だ。

 厚みは数ミリばかり。それをポンポンと合わせて3つ、投げ付けられる。


 腹立ちの表情を作りながらも、降夜はしっかり札束を握り締めていた。3万ドル(400万円強)ある。

 一瞬、思考を失う程の金額だ。文句を言おうと開きかけた口もパクパク動いて、結局そのまま閉じられる。


「わたしの名はミサ・ゴルト・クレーバーだ」


「うわ、パワフルな名前だな」


 女は堂々と名乗った。ゴルト・クレーバー──それはドイツ語で金鉱を探す人という意味を持つ。


「何だ?」


「いえ……」


 降夜の記憶が突然警鐘を鳴らし始める。


「ゴルト……え?」


 この街のマフィアは大きく二つに分かれている。

 一方がキング派。もう一方がゴルト派……。

 後者は確か昨年から女が統括しているとかいう話を、今しがた『黄金屋敷(ゴルデンハオス)』前を通った時に思い出したっけ。


「待てよ。おい、嘘だろ。そういうパターンかよ」


「何をブツブツ言っている。戦争が始まると言っただろう! 聞いてないのか!」


 女はゴルトと名乗った。性能の良い高価な銃を持ち、躊躇なく人を殺す。


「おま……あんた、いや、あなたはゴルト派と関係が?」


 降夜にしては控え目に尋ねたつもりだ。途中何度か言い直したのはお前、あんたと呼びかける度にゴルトの銃口がこちらを向いたからだ。


「わたしが指揮っているファミリーがゴルト派と呼ばれているが」


 予想通りの答えが返ってきて、降夜は引いた。


「と、とてもお若そうに見えますけど?」


 見たところ、26歳の自分とさして変わらなさそうだ。


「年齢は関係ない。わたしがボスだ!」

 昨年の抗争で父が死んだから、わたしが後を継いだのだと彼女は言う。

「それにマフィアの世界では決して若くない。もう14だ」


 大人びた顔立ちと大きな胸を見てから、降夜はポカンと口を開けた。


 ──この女、まだ14歳だって?


「あ、真霧といっしょ」


 向こうの方でチワワっぽい少女が呟く。こちらにも降夜は肝を潰した。


 ──この子も同じ年齢だって?


 一瞬、思考が停止する。いや、そんな事に驚いている場合じゃなのだが。


 ビシッ。ゴルトの指が降夜の額を指した。


「貴様の名は降夜。父は日本人。母はドイツ人。両親とも幼少期に亡くしている。日本警察爆弾処理班に属していたが、23歳の時、爆弾テロ事件の特殊爆弾を解体中、爆発事故が起こる。同僚が死亡し、自身も指を失う。その事件が契機となり警察を退職。母の故郷であるドイツにやって来た。職と土地をあちこち転々とし、2年前、リュックザイテに落ちてくる。ボディーガード業を営むが、警察の下請け的爆弾処理の仕事で食いつなぐ生活」


 暗記していたものを読み上げるように、ゴルトが降夜の経歴を喋り出した。半ば呆れたように彼はその声を聞くだけ。

 よく調べてやがる。脅しているつもりだろうか。別に構わねぇんだけどな。隠すような事でもないし。


「ガードしろって言ったよな……でしたね。なら、何で身内にさせねぇんだ……させないんですか」


 14歳の小娘──とてもそうは見えないが──相手に敬語に言い直すこの情けなさ。

 しかしそれは尤もな疑問だ。街のボディーガードより、マフィアの中に居る方が余程安全だろう。

 ゴルトは、かしずかれる事に慣れた傲慢な態度でもう一度降夜に銃口を向けた。


「裏町の名もなき者の元に身を寄せる方が狙撃の危険も少なかろう。どうだ、受けるのか? まさか受けないつもりか?」


 返答次第によっては撃つ。

 威嚇する目は熱く燃えていた。そんな彼女の足元に、同年齢であるらしい真霧がちょこちょこ這って来た。


「ダメです。先に依頼したのは真霧です」


 何だ、と怒鳴られ少女が「ひゃあ!」と悲鳴をあげる。そのまま降夜の背中に逃げ込んだ。


「こ、降夜さん、先に依頼したのは真霧です。それでもあの人の依頼を受けますか。やっぱりお金の問題ですか」


 震えながらも痛い所を突く。


「いや、何て言うか……」


 この状況、断ったら僕の命はねぇだろ。


「受けるか、受けないかさっさと決めろ。本当に撃つぞ!」


 キレかけたゴルトが絶叫する。


 ──必要なのかよ!


 降夜は心の中で叫んだ。このサイボーグみてぇな女に、本当にガードが必要なのかよ!

 しかし命は惜しい。肯定の意思を伝える為、口を開きかけた時だ。

 突然、電話の音が鳴り響いた。



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