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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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死の色彩(1月10日・2)3

 自分に向けられるこの憎しみは何なんだ。

 全身を何発も撃たれ血みどろの姿で路地に突っ伏したまま、ブラッドは必死で考える。


「これがカンナの望みなの。あの子は仕事(ラップ)が大好きなのよ」

仕事(ラップ)を辞めるくらいなら死んだ方がマシって言ってたわ」


「あんたと付き合ううちに、この街を出るなんて言い出して」

「ミツキだってそうだった。突然店を辞めるなんて言うから」


 双子はレズビアンだ。 

 カンナのことを、そして最初の犠牲者であるミツキのことを想っていたのだろうか。彼女たちを失いたくなくて、それで……?


「だから、カンナを殺したのか……?」


 怒りの衝動に体が燃える。

 声を張りあげて双子に飛びかかるが、ブラッドの動きは緩慢だった。

 何箇所も撃たれて、全身の激痛に立っているのがやっとという状態。

 彼女たちに突き飛ばされると、呆気なく地面に転がる。


 その拍子に床に何かが落ちた。


「あ……」


 咄嗟に伸ばされたブラッドの手を踏み、双子が拾いあげたのはカンナがくれたビデオである。


「か、返せ!」


 彼がつかみかかったため、3人はビデオを奪い合って揉み合った。


「これ、あたしたちがあげたやつ!」

「何で、あんたが持っているのよ!」


 引っ張り合う最中、腹を撃たれてブラッドは倒れた。

 双子は顔を突き合わせてモニターを開いている。

 あたしたちだってカンナの姿を見たいのよ、と。

 しかし2人はすぐに顔を見合わせて首を振った。

 充電が切れていることに気付いたのだろう。


「カンナ……」


 うわ言のようにブラッドはその名を繰り返し呟く。


 ──すまない。ビデオも取られてしまった……。


 腹の傷は致命傷になりうるものだ。

 血液がドクドク溢れ出る感触とともに、激しい目眩に襲われる。

 武器も持っていないし、手錠もそのままだ。これ以上の抵抗なんてできやしない。

 それに、もう撃たれるのは嫌だ。

 このまま目を閉じよう。そう思って、意識を失いかけた瞬間。手の中で何かが熱を帯びた。


「カンナ……?」


 こっそり開いた手には、(ブラット)のストラップが光っていた。それはカンナがくれた物だ。

 ビデオを奪い合った時に紐が引き千切られたのだろう。


 ──これには秘密があるの。


 カンナはそう言っていた。


  ※  ※  ※


  ※  ※  ※


「君は要領悪くて、危ないことに巻き込まれてばかりだから心配だわ」


 あのとき、カンナはそう言った。

 どういう意味かと思ったが、ブラッドは言い訳でもするかのように口の中でごにょごにょと何事か呟くだけ。

 弟にも彼女にも、会う度に同じようなことを言われるから正直うんざりしていたのだ。

 それよりも、貰ったビデオに彼は夢中になっていた。


「カンナが、歌ってる」


 音声はないものの激しい調子で歌う彼女の姿は、画面の中でも美しかった。


「それはもういいわよ」

 照れたようにカンナはモニターを閉じる。

「それより見て。これには秘密があるの」


「ひみつ?」


 首を傾げてビデオの裏を見た大男に、カンナは苦笑した。


「これでも私、君のことをとっても心配してるのよ。だから作ったの。私がそばにいなくても、君を守れるようにって。シルヴァー+クロイツ製よ。高級品なのよ。ライト姉妹にもらったの」


 ブラッドは呆けた顔で彼女を見返す。

 『シルヴァー+クロイツ』は銃器メーカーだ。

 カンナは一体何を得意げになっているのだ?


「このカメラが銃器?」


「違う違う。こっち」


 カンナが指差したのはビデオに付いている葉型のストラップだった。


「葉っぱのオブジェを作ったのは私。でもコレ見て、中央の小さな飾り。コレね、実は超小型爆弾なの」


 それがシルヴァー+クロイツ製であるという。随分前に、ライト姉妹がカンナに贈ったそうだ。


「君が自然に持てるように何かに細工しようと思って。私、手先が不器用だから作ってるうちに時間がかかっちゃった。でも、今日渡せて良かったわ」


 ──葉っぱの(ピン)を引っ張って。ああ、今は駄目。手榴弾みたいな構造になってるの。ピンを抜いて、5秒すると爆発するわ。小さいけど威力は絶大よ。きっと君を守ってくれるわ。


「今日渡せて本当に良かった」


 カンナはもう一度同じことを言った。


「分かった。ありがとう、カンナ」


 ブラッドは邪気のない笑顔を浮かべる。

 明日になれば特殊部隊も辞める自分に、そんな物を使う機会があるとは思えないが、それでも彼女が心配してくれるのは嬉しかった。


 明日になれば2人で街を出る。寂しい気持ちはあったが、心は躍っていた。


「じゃあ、明日ね。店で待ち合わせましょ」

 そう言ってカンナも笑った。

「そのストラップ、絶対に放さないで。いつも持っていてね」


 その笑顔はブラッドの脳裏に今も焼き付いている。


  ※  ※  ※


 瞼を開けることができない。額を流れる血が目に入ったのか。痛みの感覚すら鈍くなっていた。

 全身を何箇所撃たれたかも分からない。武器もない。もう動けない。しかし──。

 握り締められていたブラッドの手が微かに開いた。


「助かった……」


 指はまだ動く。

 ブラッドの死亡を見取る必要もないと判断したのだろう。

 何事か言い合っていた双子が彼に背を向けた。Kらにとどめを刺しに行くつもりか。


「待て……」


 小さな声を、双子の片割れが耳に留めた。こちらを振り向いて口を動かす。

 ブラッドの耳は既に麻痺していた。彼女達の声は聞こえない。しかし迸る殺気は肌に感じる。

 レモンがこちらに近付いてきた。その銃口は真っ直ぐ彼の額に向けられている。


 ブラッドの唇に微かな笑みが蘇った。

 レモンの手にあるビデオ。そのモニターが開いていたのだ。そこに一瞬、映像が瞬く。


 不器用なブラッドは慎重に(ブラット)の軸を抜いた。頭の中でカウントする。


(アイン)(ツヴァイ)(ドライ)(フィーア)……(フュンフ)


 鮮やかな緑が広がる。

 それがブラッドの見た最後の光だった。

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