死の色彩(1月10日・2)1
暗闇に目が慣れるまでに数分はかかった。
凍える体を震わせながら、ブラッドはそろりと身体を動かす。
誰かが庫内の電気のスイッチを切ったのだ。
さっきの音は銃声。
曖昧な視界で確認すると、倒れている人物が先程より多い気がしてきた。
ジャラリ。
両手を拘束する手錠が恨めしい。
壁沿いを移動して、ようやくスイッチを探り当てる。
明かりが戻り、ブラッドは顔を顰めながら足元を見下ろした。
樹楽が倒れている。肩から微量の血が流れていた。撃たれたのか?
その足元には血塗れの双子が折り重なるようにして伏していた。
「お前が……?」
床に座り込んで咳き込んでいる黄色の小男につかみかかる。
「お前が彼女たちを撃ったのか? お前がカンナを……?」
「ち、違いますっ……!」
必死で抵抗するKだが、兄とは体格差がありすぎた。
両手が不自由なくらい、ブラッドのハンデにはならない。たちまちのうちに弟は冷たい床に押さえ込まれた。
「兄さ……、違う! 考えてくださいっ!」
「黙れ!」
Kの上体に圧し掛かり、両腕を振り上げる。
手錠の金属ごと押し潰すつもりで、Kの顔面に拳を振り下ろしかけたその時だ。
ブラッドの頭の中で弟の声が反響した。
──考えてくださいっ!
考えろだ?
何を考える? オレはそういうのは苦手だ。
一瞬のうちに思考を放り捨て、弟を殴り倒すのは簡単だった。しかし、何かが引っかかる。
考えろ。
Kは銃を持っていない。
それはつまり今、双子とダンサーを撃ったのは彼じゃないということになる。
そもそも先程まで弟を押さえ付けていたのは自分ではないか。
銃を扱う隙なんてなかったはずだ。
いや、服のどこかに隠していた可能性もある。
3人を撃って、照明が落ちた間にどこかに隠したのかもしれないじゃないか。
あるいは倒れている3人のうちの誰かが持っていて、お互い撃ち合ったのかもしれない。
いや、違う。誰も銃なんか持ってない。
ブラッドの額から汗が流れた。
それは床に落ちた瞬間、霜に覆われ凍りつく。
何かがおかしい。でも何が?
店長が店の冷凍庫にいるのに不自然さはないし、双子だってそうだ。
樹楽が現れたタイミングは出来過ぎだが、Kの部屋にいたのなら双子の悲鳴を聞いて駆けつけたと考えれば時間は合う。
振り上げた腕が痙攣した。
「うおぉぉ!」
叫びながらブラッドは両拳を弟の顔面に振り下ろす。
──銃声は一発だった。
おかしいのは、そこだ。何故3人が倒れている?
跳弾か?
一瞬、馬鹿な考えが過ぎったが、それは瞬時に打ち消された。
軽い銃声だ。弾丸はピストル用の9ミリ弾だろう。
人間の体を貫通する事はまずない。
たまたま腕や首を突き抜けて壁や天井に跳ね返ったとしても、そう上手く3人の人間に当たり、しかも命を奪うとは考えられない。
その時、突然思い出した。
カンナの眼を持ってきたのは誰だ。
確か「そこで宅配業者に渡された」と言っていた。
しかしそんな業者は見付からなかったではないか。
突然、真実が衝撃となって襲いかかる。
あの日、《《彼女達》》はここでカンナの眼球をくり抜いてから箱に詰めて持って来たのだ。
指や爪なら、小柄な女性にとっても切断しやすい部位だ。
3日目に怪しい男に声を掛けられたと証言したのも彼女達だ。他の者は見ていない。
そしてさっき、血塗れで駆けて来たライムの姿に覚えた違和感。
──双子が犯人なのか?
手を止めようとしたが遅く、ブラッドの腕は振り下ろされる。
ゴッ!
Kの顎に拳が炸裂する。
白目を剥いて失神した弟にいつもの台詞も出ず、ブラッドは顔を歪めてKを解放した。
同時に、視野の端で何かが動く。
「待て!」
双子の片割れ──ライムの方が起き上がり、扉の隙間に向かってそろそろと這い進んでいたのだ。
ブラッドは彼女に飛びかかる。
両手が不自由とはいえ、小柄な女性の抵抗などものともしない。悲鳴すらあげさせずに首をつかんで壁に押し付ける。
「お前なのか──?」




