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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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心臓(1月10日・1)2

  ※  ※  ※


 ほんの数日前まで、悲劇の予兆すらなかったというのに。

 あの時、シリアルKのカウンターで、いつものようにカンナは屈託のない笑顔を見せていた。


「ブラッド、君はこの街には向かないわ。特殊部隊に入れたのだって奇跡に近いもの。ま、この街の警察は人手不足だから、希望者は無条件で入れるもんね」


 意外と毒舌なカンナはよくそう言って彼をからかったものだ。


 ──このビデオをくれたあの日もそうだった。


「一応テストはあった。でも、その年は定員割れで……」


 ホラ、という顔をしてカンナは笑う。

 彼女の声が大きいのは、ヘッドホンで音楽を聴きながらの会話であるからだ。

 店が終わってから『シリアルK』の店内で、カンナはよく彼とこうやって話をした。

 ラップ音楽を聴きながら体を揺らしてリズムをとり、それに乗せる言葉を思いつくままにノートにメモっている。


 彼女は戦士だ。

 音楽(ラップ)で体制に戦いを挑むのだと己に対して宣言したらしい。


 格好良い人だ──そう思う。

 そんな彼女をブラッドは側で黙って見ているのが好きだった。


 少し頭の弱いオレを彼女が何故構ってくれるのか、まして一緒に街の外へ行こうなどと言ってくれるのはどうしてなのか、ブラッドには今もって分からない。

 理由を尋ねるのが怖くて、彼はとにかく恋人の言いなりになっていた。


 ペンを走らせているカンナを忠犬のようにじっと見詰めたまま、何か言ってもらえるのを辛抱強くいつまでも待っている大男の姿。

 それは傍から見ると微笑ましくもあり、気味悪くもあったろう。


 彼女は前者の感じ方をしたようだ。

 どうしようもなく頭の悪い、けれどそこが可愛い子供に対するような複雑な微笑を彼に向ける。


「退屈? 先に帰っていいわよ」


 無言でゆっくり首を振ったブラッドに、カンナの口元に零れる笑み。

 この大男が可愛くてたまらない。そんな表情だ。


「そうだ。退屈ならこれ、あげるわ」


 ブラッドが大きな両手で受け取ったのは、旧式の小型ビデオカメラだった。

 都市部で廃棄された物がこの街に回ってきたのだろう。


「………………」


 明らかに戸惑った表情のブラッドに、カンナは横から手を伸ばしてモニターを開いた。


「ライト姉妹にもらったのよ。これで私が歌ってるとこを撮ってもらったの。今度記録メディアを貰ったらちゃんとテレビで見れるんだけど、今はこの小さなモニターで再生するだけ。そうだ、君も撮ってあげるわ」


「え、ちょっ、ちょっと待て……」


 理解できない言葉を矢継ぎ早に繰り出され、レンズを向けられてブラッドはその場を飛びのいた。レンズがスコープやレーザーポインターに見えて、体が自然に反応してしまうのだ。

 カンナは「へぇ、さすが特殊部隊ね」と笑った。


「格好良く撮るから今度映させてね。とりあえず今は再生押して。そこよ」


「え?」


 ほら、そこ。再び横から手が延びる。


「ここが再生ボタン」


 彼女が触れた途端、モニターに光が点った。

 薄緑色の光。それはカンナの色彩だ。


 彼女がステージで歌う姿が小さなモニターに映される。手ブレが酷いし照明も悪い。

 それでもブラッドは彼女の姿に見とれた。口の動きにじっと見入る。


「音が出ないでしょ。壊れてるの。多分、そこを開けて回路の埃を取り除いてからもう一回設定し直せば大丈夫と思うんだけど。ブラッド? 大丈夫?」


 眉間に皺を寄せて唸り出した男に、彼女は説明を止めた。


「まぁいいか。今日は再生を覚えたわね。明日は充電を教えてあげる」


 そのあと、2人で街を出ましょ。

 そう言って彼女は笑った。少し強引に言われた方が、ブラッドには丁度いい。


「再生……」

 小さく呟いてから、彼はモニターに視線を落とした。

「カンナ、この葉っぱは?」


 (リーフ)型のストラップを巨きな指が摘んだ。


「それはブランドものよ。シルヴァー+クロイツ製なの」


 有名な銃器メーカーの名を挙げられ、ブラッドがきょとんとしているのに気付いてから、彼女は照れたように俯いた。


「中の機械だけだって。シルヴァー+クロイツ製なのは。外側を葉っぱ型に加工したのは私」

 上手。と言われて彼女は苦笑した。

「秘密があるの。その葉っぱにはね──」



  ※  ※  ※

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