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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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心臓(1月10日・1)1

 パトカーが通りすぎ、ブラッドは路地裏に身を隠した。


 街を逃げ回って丸1日が経ってしまった。

 どうしたらいいか分からない。


 『(フュンフ)』事件の容疑に関しては女刑事の推測に過ぎないが、武器横領と咲良に対しての誘拐、さらに刑事への暴行は紛れもない事実なのだ。

 警察に追われるのは当然の結果。


 ほんの僅かでも頭が回れば、この事態も何とか回避できたかもしれなかった。

 どうすれば良かったのだ。そしてこれからどのように動けば良い?

 万一追い詰められたら、自分にはこの巨体と有り余る力しかない。更なる暴力を重ね、下手をすると射殺されるかもしれない。


 小雨がぱらついてきたことに、ブラッドは気付いた。

 汗と傷に塗れた顔をあげ、冷たい滴に晒す。

 このまま本降りになれば追跡の手は緩むかもしれない。

 運良く霧が出れば人目を避けての移動も楽になるだろう。


 ガチャン──。

 歩き出した拍子に鎖が派手に音を立て、ブラッドはびくりと巨体を震わせその場に座り込んだ。


 気が付けばカンナの眼球もなくしていた。

 それは元より事件の数少ない証拠品だ。

 女刑事に没収されたか、それとも落としてしまったのかもしれない。


 自分の馬鹿さ加減、要領の悪さをあらためて思う。


 手首は手錠に拘束されたまま。動く度に長い鎖がチャラチャラ音を立てる。

 危険を冒して武器倉庫に侵入し不自由な腕で必死になって銃をかき集めるなら、手錠のキーを持ってくれば良かった。

 しかも結局1挺も持ち出せなかったではないか。


 自分のせいでつかまった咲良も助けようと思っていたのに土壇場で忘れてしまったし、スコーピオンもそのままにしてのこのこ徒歩で逃げ回っている。

 この体格と容姿は、それでなくとも実によく目立つ。

 そのうえ長い鎖付きの手錠を見られたら、間違いなく通報されるだろう。


 なぜこんな事になったのか分からない。

 本当なら今頃カンナと一緒に街を出ているはずなのに。


「カンナ……」


 恋人というより保護者の庇護を求めるように、彼はその名を口にした。


 今日は4日目。

 被害者の左胸が切断される日だ。

 その事もブラッドの気持ちを弱くしていた。こんなに街を動き回っているのに、彼女がどこに囚われているかすら分からない。


「カンナ、必ず助けるから……」


 握り拳で顔を擦って、彼は立ち上がった。

 少なくとも動かなくては。

 自分の事なんてどうでもいい。彼女を救うためには、何らかの行動を取っていくしかない。


 雨は強くなっていた。


 先程から、強風に乗って爆発音や銃声がブラッドの耳にも届いていた。マフィアの抗争が激しくなっていると双子が言っていたっけ。


 どこへ向かえば良い?

 ない頭を必死に振り絞って考える。

 しかし答えは出ず、取りあえずこの場所に長居するのは危ないから離れようという意識しか湧かなかった。感性の乏しさが恨めしい。


 銃声はますます近付いてくる。

 鎖を上着で隠して、路地裏から注意深く滑り出たその瞬間。


 こめかみに熱が走った。続いて遠くで重い銃声。


 ──撃たれた?


 そう感じた時には遅かった。

 体が前方につんのめる。ズン……地響き立てて巨体はアスファルトに激突した。


 運の悪いことに、流れ弾がこめかみを掠ったのだ。

 当たったわけではないが、重い弾の威力は彼に軽い脳震盪を起こさせた。


「うっ……か……」


 ──意識を失ってはならない。


「カンナ……」


 ポケットのビデオを守ろうと、変な倒れ方をしてしまった。

 肩をアスファルトに強打した拍子にビデオが地面に転がり落ち、モニターが勝手に開く。


「カンナが……」


 手を延ばし機械をつかんだ瞬間のことだ。

 生き返ったバッテリーが数秒作動し、モニターに薄緑色の光が舞った。


  ※  ※  ※

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