爪(1月9日)3
その時だ。
凍て付いた空気を破るように騒々しい双子が店に入って来た。
「聞いてくださいよ。今そこで……あ、ブラッドさんじゃないですか」
「大丈夫なんですか。顔色悪いですよ。ドクターも何やってんですか」
大荷物をカウンターに置くと同時に2人の手錠を目ざとく見付け、樹楽に説明を求めている。
ちらちらとこちらを見ながら声を殺して笑う様子に、咲良が不貞腐れたように彼女たちを睨んだ。
「いつも遅刻してばっかなのに、今日はえらく早いね。まだ昼前だよ」
「あたしたち、店長に呼ばれたんです」
「そうですよ。特別に用って何ですか」
双子は堪えた様子がない。代わりにKが慌てた。
「いえ、あの……。ここのところ、ちょっと人手不足でして。うちはステージが売りですからね。あなた達、舞台に出ませんか?」
ちらちらと兄の方を見やりながら、小声で話す。
先日ストリッパーが、今回ラッパーカンナが消えたものだから、真面目な話、業務が滞るのだ。
クレイジーダンサー・樹楽は人気だが、たったひとりではさすがに持たない。
「ストリップが嫌だったら、歌でもラップでもポエムでもダンスでも何でもいいですから」
ポエムって何だよ。咲良が低い声で突っ込む。
しかし双子は顔を見合わせて首を振った。
「あたしたち、派手なことよりもどっちかって言うと裏方型なのよね。ライム」
「そうなのよ。ステージよりウエイトレスしてる方が性に合ってるわ。レモン」
交渉をするために早く呼んだのに、にべもなく断られてKは肩を落とした。
「仕方ありません。やはりボクがポエムを読むしか……」
「マスター……。ヤニ中女に言われたように、しばらく店閉めた方がいいんじゃないか?」
樹楽の言うことはもっともだ。しかしKは頑として首を縦に振らない。
「駄目です。お客さまの要望で日本からカニを空輸したんですから。松葉ですよ! 高かったんですから、期日までにきちんとお出ししなくては」
「届いたんだ? 裏の大冷凍庫に入れてあるんですか?」
「いいですね! あたしたちで食べちゃいましょうよ!」
駄目ですよ、と言われる前に双子は自ら話題を変えた。
彼女たちは裏町の情報発信源。知っている事は喋らずにはいられない。
「そのカニ好きのお客さまって武器職人なんですよ」
「凄腕の職人で作れないものなんてないんですって」
「細かいアクセサリーの内部にも武器を仕込んだり」
「それがもの凄い性能でカンナも感心してたものね」
「……武器職人だって?」
ゆらり。立ち上がりかけたブラッドを弟が慌てて止める。
「あの子たちの言う事は聞いちゃいけません。どうせいい加減な話なんですから」
何よ、と双子が声を揃えてKの方を睨む。
「そんなことよりあなた達、その大きな荷物は何ですか。銃ですか。爆弾ですか」
Kの副業は武器商人だ──密売業というには恥ずかしいくらい大っぴらに行っている。
「ええ、今回は主に海外のライフルが中心ですね。ね、ライム」
「そう、抗争が近いらしくて良品は品薄状態です。ね、レモン」
双子は彼と組んで売人をしている。
舞台に出られない忙しさは、主にこちらが原因であるのだろう。
「マフィアの抗争が近いらしくて、フフッ、武器爆薬が売れて売れて……」
Kがニヤニヤ表情を崩した。




