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震駭のゴット・シュヴェルツェン  作者: コダーマ


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爪(1月9日)2

  ※  ※  ※


 そもそもこんな事態になったのには理由がある。


 昨日、ブラッドは咲良に手錠をはめた。

 豊胸手術の準備段階の女を見て混乱したのだ。

 手錠をかけられ、咲良も混乱した。

 暴れるうちに手錠のもう一方の輪はブラッドの手首にはまり、挙句にブラッドは窓から鍵を放り捨ててしまったのだ。


 誤解はすぐに解けた。しかし手錠は外せない。


「何でこんなコトしたんだよ!」


 そう言っても大男は小さくなって「すまない」を繰り返すのみ。


 しかし、そんなことを追求している場合でないのは確かだった。

 麻酔薬を吸入し続けた患者が危険な状態にあるのは素人のブラッドにも瞭然だったし、とにかく彼女をきちんとした設備のある病院に運ぶのが最優先の行動だと2人の意見は一致したのだ。

 ブラッドのスコーピオンで郊外のまともな──つまり公的に認可された──病院に搬送し、怪しまれないよう上着を巻いて手錠を隠して、患者に付き添った。


 今朝方になって彼女が意識を取り戻し、検査の結果、異常がないと分かったことから二人は病院を出たのだと言う。

 病院から最も近かったのが咲良のビルでも、ブラッドの家でもなく『シリアルK』だったそうだ。

 店の裏にある小部屋に住んでいるKを叩き起こして現在に至るというわけだ。


「それはご苦労様でした」


 Kは嘆息した。他に言う言葉がない。

 樹楽が探してきたニッパーも全く歯が立たないと分かり、繋がれた2人は意気消沈した様子で椅子に腰掛けた。


「少し休憩しなさい。たしか夕べの定食の残りが……」

 冷蔵庫を開けてタッパーを取り出す。

「うちはバーですが、食事にも定評があるんですよ。栄養満点のいいものを食べさせますよ。そうそう、わざわざ日本からカニを取り寄せたんです。やはりこの時期、カニを食べなくては始まりませんからね」


 わざと明るく食事の支度を始めたKに、兄のブラッドの視線が注がれる。


「カンナは……?」


「………………」


 ブラッドが俯いて、ポケットからビデオカメラを出す。

 しかしスイッチを入れてもビデオは起動しなかった。


「バッテリー切れだろ。充電しなきゃ。充電器は?」


 咲良の言葉に、大男は首を横に振る。


「カンナは、これだけくれた」


 傷だらけの顔が、泣き出しそうに歪んだ。


 レンジで温め直した食事を2人の前に出してから、Kは言いにくそうに切り出す。


「昨日、カンナさんの指が警察署に届いたそうです。新人刑事が聞き込みにきましたよ」


 そうか……。

 ブラッドがうなだれる。


 『(フュンフ)』最初の被害者であるストリッパーの恋人は事件後、狂って自殺したそうだ。

 情報通の双子が仕入れてきた話である。

 兄の耳には入れるなと念押ししたものの、弟の胸にその話は暗い影を落としていた。


「兄さん、独自に犯人を見付けようとしているようですが、やめておきなさい。兄さんにもしもの事があったら……」


「犯人なんて、捜してない」

 いつになくはっきりした口調に、Kは兄を見返す。

「オレは、カンナを探してるんだ」


「兄さん……」


 ブラッドはビデオに付けられたストラップを指で丹念に触っている。

 葉の形をしたものだ。それをくれたというカンナを撫でているつもりか。


 そうは言っても手がかりはない。

 使われていない街の建物、廃ビル、廃工場にカンナが囚われているんじゃないかと、しらみ潰しに当たっていくとしても圧倒的に時間が足りない。

 心当たりもない以上、正直、八方塞りだ。


 新たな手がかりが欲しいが、だからと言ってカンナの爪が届くのを待つという今の状況は気が狂う。

 食事も喉を通らず、ブラッドは頭を抱えた。

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