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5 精霊の願い

 エルム達に教授してもらったその晩の事。


 肉体的にも精神的にも疲弊していたが、思うところがあり、現在ルーシェは学園から少し離れた郊外の草原へと来ていた。


 人々は寝静まり、今はどこまでも続く深い闇を、白月の光だけが明るく照らしている。

 この時間は、ルーシェが人目を気にする事なく集中出来る唯一の時間。

 草木の揺れる音だけが流れる静寂な空間の中、ルーシェは風になびく「銀に近い水色の髪」を軽くかき上げ苦笑した。


「寮………「また」抜けて来ちゃったな」


 今は、普段掛けている“認識阻害”の瓶底眼鏡も無い。

 本来の色である、「水晶の様に透き通った紫の瞳」は、月明かりによって一層美しく輝いていた。

 ルーシェは、澄んだ夜風を体に受け、その瞳を気持ちよさげに閉じる。

 そして瞳を開くと、決意を滲ませた。


「さて、やるか!」


 一つ息を吐き、杖を持つ手に力を入れる。そして静か呪文を唱え始めた。


【水流を纏いて障壁となす】


 それは、日中にエルムが見せてくれた魔法と同じもの。


(どうかお願い!)


 ルーシェは思いを込めて、ゆっくりと呪文を唱える。

 そして、それに合わせ、足元には青白い光が魔法陣を描き始めた。


(これなら大丈夫かも)


 何とか発動の兆しが出た事に少し安堵する。

 だがその瞬間、そんな思いを他所に、ルーシェは体を流れる魔力に吐き気を覚えた。


「…………ぐっ!」


 足をふらつかせ、方膝をつく。

 魔力のコントロールが乱れ、視界も歪んでゆく。


「まずい…っ!」


 その瞬間。


 ルーシェを囲う様に幾つかの小さな白い光の球が出現し、術を中断させた。

 ルーシェを守る様に浮遊する光の球は、人の形をとりながら、その周囲をキラキラと輝かせ、描き切る前の魔法陣に手をかざし、光を降り注いだ。

 そして、その光に反応した魔法陣が「パリンッ!」という、ガラスを割った様な高い音を立てて砕けた。


「ゴメン…ありがとう」


 ルーシェは、一気に襲われる脱力感と冷や汗に、震えが止まらない。


「………「本来の姿」なら何とか魔法が発動しないかなって、思ったんだけどね」


 ルーシェは出現した光の存在に対し、目を細め苦笑した。

 この世界の創造者である神と呼ばれる「精霊王」の眷属。

 人々は、彼らを通称で精霊と呼んでいる。


「やっぱりダメかぁ……。学校にいる間だけでも「自力」で通常魔法を使いたかったのに」


 そのまま、草の上にゴロリと体を預け、力を抜き天を仰ぐルーシェ。

 その言葉に、精霊は自分達が使用する特別な言語、「精霊語」で言葉を発した。


『……私達がいるのに、助けるよ?』

『そうだよ!何で頼らないの?』

『その体で無理しすぎ!』


 心配そうに言う「彼ら」。

 それに対し、ルーシェは苦笑交じりに微笑んだ。

 そして、普通の人間であれば理解する事が難しいその言語を、何事もない様に理解し返す。


「そうなんだけどね………でも」


 確かに、彼らの力を借りれば問題は解決するかもしれない。

 だが、学園内での立ち位置を考えると、どうしても素直に借り入れる事は出来ない。

 彼らの力は通常の魔法とは全くの別物なのだから。


 ルーシェは、現在「ある事情」により、魔力に制限が掛かっている。

 その枷を外す方法はただ一つだけ。

 湧き上がった「ある思い」に対し、表情に影を落としながら、ルーシェは顔を伏せた。

 すると、精霊達はクルクルとルーシェの周りを漂いだす。


『じゃあ、「彼の方のお願い」を聞いてさしあげらた?直ぐに解決でしょ?』

「え!?」


 今正にその事を考えていたルーシェは、その一言に動揺した。

 それは自分がずっと遠ざけてきた答え。


「ごめん…それは無理…」


 ルーシェは悲しそうな顔でそう呟いた。

 そして「求めていた返事」が返って来なかった事に、精霊達からは少しイラついた口調で言葉が返ってきた。


『頑固者!』

『本当、焦ったい!「主様」の事大切なんでしょ?』

『捨てられても知らないからね!』


 ルーシェの返答に対し、少し甲高い声で言い返す精霊達。

 そして、そのまま彼を無視する様に、彼らはゆっくりと姿を消して行った。


「………………ひどい言われようだな」


 ルーシェは苦笑し、肩を落とす。


(分かってるよ………僕だって本当は)


 大切な「彼女」の願い。

 それを聞き入れれば、枷を外し自由になれる。

 だが、その代償を払うのは自分ではないのだから。


「愛しい人を傷つけてまで、自由になりたくはないんだ……ゴメン」






 翌日。


 いつもの様に授業が執り行われる中、「今日こそは」とルーシェを見守っていたロウダの目の前で、パンッ!と音を立てて魔法陣は呆気なく壊れた。


「どおしてなのぉ~」


 相変わらず魔法の使えないルーシェに対し、担任であるロウダは頭を抱える。


 それに対してルーシェは。


「申し訳ありません…」


 そう言うしかなかった。

 結局、本日も特訓の成果なく魔法を発動する事が出来なかったのだった。






 そして、そんなルーシェが日常を送る中。

 とある場所ではこんな会話が繰り広げられていた。


『もぅ!あの分からずやには疲れますわ!』


 一人の精霊がプリプリと頬を膨らませる。

 それに対し、周りにいる仲間達から『そーだ!そーだ!』と支持する声が。


『…………そう』


 そして、その精霊達の前の玉座では悲しみを我慢する一人の少女がいた。


『主様のせいではないですよ!』

『あの子が頑固なだけですわ!』

『主様!泣かないで~』


 精霊達にとっては『主』の願いが最優先。

 それが「どんな事」であれ、主の願いを成就させたいのだ。


(ルーシェの気持ちもわかる…でも、私は)


 そんな中、少女の側近は己の手で優しく彼女の手を包んだ。


『主様、次の精霊祭でお逢いしてみては?』

『………精霊祭、ですか?』

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