4 友人との訓練
ルーシェが担任であるロウダに呼び出された翌日の事。
今日は授業が午前中のみだった事もあり、放課後の時間を利用し、ルーシェはカイン、エルムと共に実習室へと来ていた。
この実習室は、普段魔法の実技授業で使われている。
大きな窓が二つだけあり、他には何もない白を基調とした広い空間。その実は幾つもの防御魔法がかけられており、強力な魔法にも耐えられる造りとなっている。
そんな実習室内にて、部屋の中央では、現在エルムが真剣な表情で意識を集中させていた。
そして清んだ声で呪文を唱え、術式を形成し始める。
【水流を纏といて障壁となす】
エルムの呪文に反応し、彼女の足元で青白い光を放ちながら描かれる魔法陣。
【我、水の言葉を謳う者なり】
術式を組み合わせ、魔法陣を完成させると、持っていた杖の先を「トン」と魔法陣の中央に落とす。
すると、魔法陣から水の柱が幾つも現れ、彼女を中心として薄く広がった。
エルムは自身の周囲に張られた「水の結界」に満足げに頷いた。
「ふぅっ」
彼女は防御魔法や回復魔法を得意としている。
現在張られている結界魔法も、大変素晴らしい出来だった。
「で、どう?」
魔法陣を杖の先で切り、術を解除すると、彼女は見学していたルーシェに話しかけた。
「そうだね、素晴らしい結界魔法だったよ」
「………あーもう!そうじゃなくて、発動の参考になったのか聞いてるの!」
呑気に返事をするルーシェに対し、エルムは呆れ顔で詰め寄った。
ルーシェは大事な友人だ。だからあんな不名誉な「アダ名」は許せないし、進級も卒業も一緒にしたい。
そのために、空いた時間を活用してを魔法の特訓をしているのだ。
「せっかく貴方と相性のいい属性の魔法を使ったのに!ルーシェは水属性と相性良かったはずでしょ?」
「……………え!うっうん」
エルムの言葉に「何故か」歯切れの悪い返事をするルーシェ。
そんな彼に、エルムは呆れ顔で深い溜息を漏らした。
この学園では、一年生の時魔力のコントロールを上手く行うために、自身と相性の良い属性を調べる授業がある。
ルーシェの魔力は、その時信じられない程に水属性に反応していたのだ。
それを覚えていたエルムは、自身も得意とする水の防御結界の魔法を使って見せたのだが……。
「もぅ………やる気あるの?」
*
練習を開始して、もうかなりの回数術を試した。
なのに。
「………どうしてなの!」
実習室では、しゃがみ込み、両手で顔を覆うエルムの姿があった。
自分がお手本を見せた後、何度挑戦しても、毎度の事ながらルーシェの魔法は途中で壊れてしまっていたのだ。
一応、呪文は最後まで唱える事が出来る。
だが、その先が上手くいかないのだ。
何度行っても割れてしまう魔法陣。
原因が分からず、エルムはその場で頭を抱えた。
「意味がわからないわ!どうなってるのよ!」
「………ごめん」
「あ…いいえ、言い過ぎね。こっちこそ………力になれなくてゴメンなさい」
「エルムのせいじゃないから…」
項垂れるエルムに、申し訳なさそうにするルーシェ。
その時。
「おーい、少し休憩しようぜ!」
おつかいに出ていたカインが、苦笑混じりの笑顔で三人分の飲み物を持って来た。
「そうね、少し休憩しましょ」
「…………ごめん」
「いいわ、仕方ないわよ。とりあえず、練習あるのみ!とことん付き合うから!」
時間を作り、自分に付き合ってくれている友人達。
ルーシェは、彼らの気持ちに感謝しながら、その気持ちに応えなくてはと頑張ってはみているのだが、結果が全く伴わない。
(………二人に話した方が良いのだろうか)
ルーシェは自分の不甲斐なさから、「魔法が使えない」本当の理由を二人に話すべきか迷い始めていた。
ルーシェ自身、本当は知っている事実。
ルーシェが「通常魔法」を苦手としている「理由」。
「友人」として信頼している彼らには、いずれは自分の「正体」を話す時が来るはず。
それならば、いっその事早々に話してしまった方がスッキリするのではないか。
(………でも、それが出来るなら苦労しないか)
使えない理由。それを話して二人がどう思うか。
出来ることなら知られたくないと言う気持ちもある。
(僕のせいで二人に迷惑かけたくないし…)
今、正に迷惑をかけているのだが、それ以上の迷惑をかけるであろう内容に、ルーシェは伝える事を躊躇せざるをえなかった。
「さて、一息ついたし。続き、するわよ?」
そんな中、悶々とするルーシェを他所に、エルムの一言で特訓は再会されたのだった。