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3 友人

「………失礼しました」


 数分後、ロウダの説教とも説得とも言える話が終わり、退室する為に彼女にお辞儀をしたルーシェは、教員室の扉をゆっくりと閉めた。


「はぁ…」


 うつむいたまま、一つ溜息をつくと、そのまま自分の教室に戻るべく足を踏み出す。

 白を基調とした内装の学園内。

 教室へと向かう為、中庭に面した回廊を歩くルーシェの足取りはとても重いものだった。


 本当は、自分でも理解している。


 何故自分に「魔法が使えない」のかという事を。


(………でも、それを言うと色々問題が起こるし)


 何か対策をしないといけない事は分かっている。そう思うのだが、使えない理由が理由なだけに頭が痛くなるのも事実。


(………直ぐに解決できる問題でもないしなぁ)


 そんな悶々とした思考のまま、程なくし、ルーシェは自分の教室に到着した。

 重たい手つきで教室の扉を開くと、ルーシェの帰りを待っていた友人と視線が合った。


「よぉ、説教タイムご苦労さん!」


 彼の名は「カイン・レオニード」。

 日に焼けた健康的な肌、緑色の瞳で金の短髪。身長も高い。

 少しヤンチャそうな彼とルーシェは、入学式当日から意気投合し、それからよく話すようになった。

 カインはこの国で有名な貿易商の次男で、家は兄が継ぐからと、この学園に入学したそうだ。

 歳はルーシェの一つ上の十七歳。将来は教師になりたいらしい。


 人懐っこい笑みで、明るく問って来たカインの言葉に対し、ルーシェは困った様に苦笑した。


「………ただいま」


 元気があるとは言えない表情でカインを見るルーシェ。

 現在の彼は、誰が見ても分かるくらいへこみまくっていた。

 そんなルーシェにカインが何かを言おうと口を開いたその時、カインの後ろから「ひょこり」と小柄な少女が姿を表した。


「お帰りなさい。大丈夫だった?」

「エルム…うん、………ただいま」


 彼女の名前は「エルム・ガッシュ」。

 セミロングの緩くウエーブの入った濃いめの茶色い髪に、同じ色の瞳。勝気そうな瞳の彼女は、三人の中でまとめ役的な存在だ。

 歳は十六歳。貴族の令嬢だが、上流階級は面倒だからと魔導師の道を選んだらしい。

 貴族の出の者…その中において、女性が魔導師を志すのはかなり珍しい。

 だが、人それぞれ理由があると、ルーシェはあえてそこには触れなかった。

 因みに、カインとは親同士の繋がりからの幼なじみだそうだ。


「参ったよ…………このままじゃ進級出来ないと言われた」

「マジか!それ、ヤバくないか?」


 ルーシェの言葉に、思わずカインが大きな声を上げる。

 それに対し、何事かとクラスの視線が集まった。


「…………あ、ははっ」

「五月蝿いわよ?」


 思わず苦笑いをするカインに、エルムが怪訝そうな表情をする。

 空気が読めないのは何時もの事だが、少しは周りを見て発言してほしい。


「全くもぅ」


 そして、カインを一瞥すると、自身の左手を顎へと添え、考える様な仕草をとった。


「ルーシェ、貴方このままだと本当にまずいんじゃない?何とか手を打たないと」


 そう、確かにまずいのだ。

 進級すら危うい今、このままでは卒業までもが怪しくなってきたのが現実だ。

 ルーシェは、自分の席に座りながら頭を抱えた。

 そんな彼に、エルムは困ったような表情になる。


「………私達で力になれる事があればいいのだけど」

「そうだな………それに」


 そんな中、思い出した様にカインがボソリと口に出した。


「お前良くない「アダ名」も付けられちまったしな」


 カインのその言葉に、ルーシェは苦い表情になる。

 空気が読めないのは知っていたが、この状況にこの内容を伝えてくるカインに、ルーシェは生気が抜けたように、そのまま体を机へと突っ伏した。


「知ってるよぉ…」


 語尾を下げながら脱力するルーシェ。

 学年が上がり、成績が一気に落ちたとたん、密かにクラス内で言われ始めた自分への「アダ名」。

 それは、否応無しに自然と耳に入っていた。


(………………「落ちこぼれ」でしょ?)


 そのアダ名が付けられた理由。それは、ルーシェに対する今までのやっかみからだったらしい。

 ルーシェの地味さも相まって、「こんな奴に」と言うフラストレーションが、一部の生徒らに溜まっていた結果だった。

 去年のルーシェがそれだけ成績が良かったという事なのだが、正直良いアダ名ではない。


(本当、間違ってはいないけど、嫌なアダ名をもらったものだよ)


 現状間違ってはいない…。

 だが、あまりにも不名誉なアダ名に、ルーシェは本日何度目かとなる深い溜息を漏らした。


(はぁ、本当に………どうにかしないとだな)

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