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2 落ちこぼれ




『……いつか貴方のために自由になれますように』



「これからも永遠(とわ)に貴女が自由でいられますように」



そして、どうか『「この願い」』が『「あなた」』

に届きますように…。





ー*ー




「はぁぁぁ………っ」


 現在、学園内は昼休憩の時間という事もあり、授業中とはうって変わり、校舎内は生徒達の話し声で溢れている。

 そんな中、教員用にあてがわれた部屋の中では、二人の人間がガラス製の長机に対し、向かい合う形で腰掛けていた。


「ありえません」


 一人はこの部屋の主。


 教員用の長い白色のローブを纏い、左目には銀縁の片眼鏡を掛け、艶のある長い黒髪を金のバレッタで後ろに束ねた、見た目「だけ」なら大変クールな美人女性教師だ。


 「だけ」と言うのは、彼女が見た目に反し、かなりのドジっ子体質のためである。

 先日も何もない所で転んだかと思えば、学園で飼育されている獣魔に何もしていないのに追いかけまわされていた。など、数え出したらキリがない、ちょっと…いや、かなり残念な女性だった。


 そんな彼女、「ロウダ・レコード」は、その朱色の瞳を細め、目の前の教え子である少年に対し盛大に溜息をついた。


「二年生になってからと言うもの…なぁにこの成績はぁ?」

「……申し訳ありません」


 少年の名は「ルーシェ・カルス」。

 薄い茶色の髪は耳に掛かる位のボブ。十六歳という歳のわりにはやや低めの身長で、その顔にかかるのは瓶底眼鏡。


 簡単に言うと「モッさい」。


「カルス君、去年の成績は大変良かったのよ?なのに今年に入ってからは…これはどういう事かしら?」


 そう、去年一年生の時の「実技がほぼ無い状態」の授業では、彼の成績は学年首位だった。

それが二年生に上がり、実技が多くなったとたんに最下位近くまで成績順位が落ちたのである。


 レイナ魔法学園は四年制の学校で、入学可能年齢は十五歳から。

 入学最初の一年間はほぼ学科のみの授業となる。

 世界の成り立ちから魔法の構築の基礎などを学び、実技は魔法を使うための条件である魔力のコントロールなどを主に教わる。

 それが二年生に上がると、本格的に実技が導入され、実際に攻撃魔法や回復魔法などを使用し、己の適正を見つけ伸ばしてゆくのだ。

 ルーシェ自身、二年生に上がると同時に、担任であるロウダ指導の元、実技授業に精を出して来た。


 だが、その努力も虚しく、彼は実技が全くと言っていい程「駄目」だったのである。


 魔法の使用に際しては問題ない魔力の量をちゃんと持っている。一年生の時、それをコントロールする事も出来ていた。

 それなのに魔法を使おうとすると発動しないのだ。

 と言うか、正解には途中から発動が止まるというのが正しい。

 魔法を使う為の呪文も術式も間違ってはいない。それなのに最終発動まで行かないのである。


「貴方にはちゃんと魔力もあるし、コントロールも出来てるのよ…それなのに何故?ありえないわ!」


 ロウダは机から身を乗り出してルーシェに詰め寄った。その表情は、悲しみと焦りが入り混じった複雑な表情になっている。

 今まで、ロウダがこの学園の教師になってから、幾人もの生徒を卒業させてきた。

 確かに、色々な理由で途中退学をした者も、成績が足らず落第した者もいた。

 だが、今までの事を思い出しても「こんな生徒」は存在していない。


 ルーシェは、歴代に数えても良いほどの素晴らしい魔力と才能を持っている。


 それなのに、このままの状態では進級は不可能と言っていいだろう。

 いや、それよりこのままでは卒業すら危ういかもしれない。

 はっきり言って、才能の持ち腐れだ。

 これは自分のエゴでしかないかも知れない。その思いはあるが、どうしてもロウダは目の前のこの少年に期待してしまっていた。


 項垂れる目の前の生徒にチラリと視線を向けながら、ロウダは深い溜息をつく。


「とりあえず、今のままでは進級が出来なくなるわ。だから、何とか頑張ってちょうだい、私も出来うる限り協力します」

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