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襲撃part2


「お前たち、何者だ!」


 厳しいダンの声に、わたしはハッと我に返る。

 ぞろぞろと現れた男たちは、既にわたしたちを囲おうとしていた。誰も答えは返さず、淡々と配置についているように見えた。


 その統制のとれた動きに、何だか違和感が募っていく。


 男たちはみんな平民のよくある服を着ている。しかし、髪や肌の手入れされた感じが平民らしくない。歩き方ひとつとってもよく訓練されているのがわかる。それに持っている剣が、柄や鍔に装飾のついたものだ。おまけにみんな同じ剣を持っていた。

 わたしは、貴族しか持たないような剣を全員に持たせるような所を1つしか知らない。──近衛兵だ。


 ──まさか、本当に王女殿下が?


 そうでなければわたしやローズたちが変装した近衛兵に襲撃される理由がない。ダンの心配が、過剰ではなかったというのだろうか。


 わたしがただ棒立ちしている間に、慌ただしく戦闘が始まっていた。


 ガン、キィン、と剣が激しくぶつかり合う音が響く。


 ダンが1人で3人の敵を相手にしていた。

 正面の敵の剣をわざと真っ向から受け止めたダンが、動きを止めた敵の股間を容赦なく前蹴りで蹴り飛ばした。予想していなかった攻撃に「おごっ」と悲鳴を上げて敵が崩れ落ちると、左右の敵が一瞬動揺した隙に、ダンはまず右側の敵の顔面を剣の面でぶっ叩いた。「んがっ」と敵がのけぞっている内に、鳩尾に綺麗なアッパーを決める。敵は声もなく倒れ伏し、あとは左側の1人、と思ったところで敵の援護が増え、また1対3の構図に戻ってしまう。


 平民ながらわたしの専属護衛になるだけあって、ダンは昔から飛び抜けて強い。剣術に体術を組み合わせ、真っ向勝負では卑怯とも言われがちな金的攻撃にも躊躇いがない。まさに『勝てば官軍』を地でいく人だ。それでも、どう考えても多勢に無勢だった。避けきれずに剣が掠り、あちこちに傷を作っている。

 きっとダンは、相手が貴族、しかも近衛兵だと気づいている。だから殺さずに気絶させようとしていて、そのせいで更に難しい戦いになっている。


 もう1人、敵が倒れた。これで戦闘不能3、戦闘中3、わたしやローズたちを囲う4、で合わせて10人だ。

 最初は戦いの様子を見つつ余裕そうに囲んでいるだけだった敵が、焦ったように手で何か合図をし始めた。すぐにそれは何かの結論を出して終わったようで、わたしたちを包囲している輪がじりじりと狭められ始めた。


 ──ダンが思ったより強いから、わたしたちを先に捕まえるつもり?


 たぶん、本当にたぶんだけど、この人たちが本物の近衛兵なら、きっと人質をとって脅すような真似はしたくないに違いない。どう考えても騎士道精神に悖るから。でも王女殿下の命令がわたしの誘拐だったら、それを完遂しないわけにはいかないのだろう。


 ──形振り構っていられないってわけね。じゃあ、わたしだってめちゃくちゃ抵抗してやるわよ!


 荒事に慣れていないローズとメアリーを置いて、わたしは一番近い敵に数歩近づいた。危機的状況にあるせいか、さっきまで辛かったはずの筋肉痛なんて一切感じなかった。


「お、おねがいします……ころさないで……」


 ぽろり、と涙を流して見せると目の前の敵は固まった。


 ──天使と呼ばれるほど愛らしいお顔が涙に濡れると罪悪感がすごいでしょ?


「い、いや、その……」


 構えていた剣を下げて狼狽える敵に、わたしは少しだけ微笑んでやってから──股間を蹴り上げた。


「ほごっ」

「あらやだ、ちょっと足が当たってしまいましたわ」


 剣を取り落として敵は地に沈んだ。あまり使えないが、一応武器になるので剣を拾う。


 ──ダンに教えてもらった護身術じゃ剣は使えないけど、投げれば意表は突けるかも?


「お、お、お前っ! 何をしているんだ!」

「そんな所を狙うなんて、淑女の風上にも置けん!」


 ちょっと腰が引けている敵2人が叫んでいる。もう1人いたはずだけど、ちらっとダンを確認すると倒れている数が増えているので、そっちに加勢に行ったらしい。


 ──あと2人なら、なんとか、なる……?


 剣を中段に構えた敵が真っ直ぐ突っ込んでくる。わたしは持っていた剣をそいつの顔に向けて投げつけた。


「うおっ?」


 驚いて剣を弾きたたらを踏んだ敵に走り寄り、その勢いのまま膝蹴りを──もちろん股間に。ほら、絶対弱点を狙えって言われてるし。ダンに。


「っが」


 蹲って大事な場所を押さえて悶絶する敵を見て、あと1人──と希望を抱いた、瞬間。


「おい、これを見ろ! こいつらがどうなっても構わないのか!?」


 最後の1人と思っていた敵が、ローズとメアリーを後ろから抱え込み、剣を突きつけていた。


 ──しまった!


 つまりわたしも、弱点を見抜かれていたというわけだ。


「こっちも終わったぞ」

「こいつ、中々しぶとかったな」


 横からかかった声に振り向くと、倒れた幾人もの男の中に、見慣れた背中が沈んでいるのが見えた。


「っダン!」


 呼んでもその背中は動かない。まさか──と足が震えて血の気が引いていく。


「まだ死んじゃいないが、早めに手当てしないと持たないだろうな。あんたが大人しく俺たちについてくるなら、こいつとその平民たちはこのまま解放してやってもいい」


 こいつらについていったら、わたしはきっと酷い目に遭うだろう。でも、助かる可能性はまだある。でもダンは、今どうにかしないと死んでしまう。そんなの絶対嫌だった。10年以上わたしを傍で守り続けてくれたダンは、もうわたしにとって家族みたいなものなのだ。


 わたしの答えは1つしかなかった。


「わかった、ついていくわ。だから早くその2人を離して!」

「シ、シンディ、ダメだよ……」

「……すぐに、医者を呼ぶわ」


 メアリーはわたしの身の心配を、ローズはわたしの心の心配をしてくれている。そんな2人がわたしの親友なことが、ただひたすらに嬉しい。


「おら、来い!」

「いった!」


 ダンと戦っていた内の1人が、わたしの髪を鷲掴んで引っ張った。


 ──ちょっとこの人、ほんとに近衛兵!? 女性の髪掴んで引っ張るとか正気!?


「いた、いたたたっ! ちょっと、乱暴にしないでよ!」

「いいからさっさと歩け!」


 相当気が立っているのか、男はずんずんと歩いていく。髪を引っ張られるわたしの後ろにも1人着いてきている。角のすぐそこに家紋のない馬車が停めてあった。

 乱暴に馬車の扉を開けると、踏み台も出さずに男が乗り込んでわたしを引っ張る。何度も言うけど髪を掴んでね!


「痛い! ねえ、ハゲたらどうすんのよ馬鹿!」

「ちっ、うるせえな、殺されたくなきゃ早く乗れ!」

「そんなに引っ張るから動きにくいんでしょ! 早くしてほしいなら少しは考えなさいよ!」

「このアマ……!」


 わたしをぎらついた目で睨み、男は拳を強く握った。どうせ殴られるならと、わたしは男を強く睨み返す。


「殴りたいなら殴れば? でも誘拐するってことはわたしを殺しちゃいけないんでしょ? こんなか弱いわたしを全力で殴ったらうっかり死んじゃうかもしれないわね? 力加減ちゃんとしないと、ご主人サマにあなたが殺されるんじゃない? あなたのその、馬鹿っぽそうで軽そうな頭で、ちゃあんと考えなさいよ!」

「こ、の……!」


 男が拳を振り上げる。どうせなら一発殴られてあとは気絶しておきたい、と後ろ向きな希望を抱きながら、わたしは強く目を瞑った。



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