新しい我が家
とある奴隷商に、たいそう美しい少年がいた。
少年の名前はアレックスといった。アレックスはたいそう美しい美貌を持っていたが、奴隷の身分であり体はやせ細っていていつもぼろを着ていた。母親とは違うところに売られてしまい、一人寂しく牢の中にいるのであった。
とある日のこと。アレックスがいつものように牢の中で目を覚ますと、商人に声をかけられた。この商人はアレックスの住む奴隷商のオーナーで、いつもぶっきらぼうに腐った飯をよこしては唾を吐きかけ去っていく外道であった。だが今日は様子が違う。商人はいやに機嫌がよく、喜々とした気色の悪い顔を隠せそうにもなかった。
「きけ、お偉いお方がお前を買い取ってくださるそうだ。それも息子としてな。」
「お偉い方……ですか?」
「そうだ。お前なんかが見えることもできぬような高貴な方だ。お前の顔が美しいから、とお買い上げになってくださるそうだぞ。無礼のないようにしろよ。」
「はぁ。」
高貴な方と言われても全くしっくりこず、呆然とするしかないアレックスを気にもしないのか商人はアレックスを売るための準備を進める。鎖を手に付け首輪をし、牢から出されて通された部屋には、自分の顔と面影がある男が座っていた。なぜこの男は自分の顔を知っているのか、この男は何者なのか等々いくらか考えていたら彼らは今後について話し終わったらしく、アレックスは生まれてから長い間暮らしていたこの奴隷商から旅立つこととなった。
馬車の中で男は大半顔を動かすことはなかった。故にアレックスには男が機械人形なのではという疑念が芽生えた。恐る恐るアレックスは聞いてみることにした。
「なぜ僕を買ったのですか。」
「お前が兄弟の中で一番美しいからだ。」
「貴方はどなたなんですか。」
「私はお前の父であり、ここらの領主だ。」
父を名乗る男が言うには、アレックスの母親は男の家で働いていた奴隷で、惚れたので子をいくらか設けたがほかの者たちに止められ売りさばいたらしい。だが一途な男はほかの貴族になびくことはなく、ずっと彼女のことを忘れられず跡継ぎができないので、息子の中から一人選んで取り戻すことになった。そして、それで選ばれたのが母親と同じ美しい容姿を持つアレックスだったのだ。
広い屋敷の中でアレックスは大勢の使用人たちに出迎えられた。見たこともない景色にアレックスは目を輝かせて言った。
「これからはここで暮らしてよいのですか。」
「あぁ。お前はこの家の跡継ぎだ。これからはトマと名乗りなさい。」
「はい。わかりました。」
「メイド長、この子に屋敷の案内を。」
「かしこまりました。旦那様。」
アレックスは、新しい名前を父親にもらったことに喜びを感じていた。初めての家族が、初めての家ができたアレックスは幸せをかみしめ、使用人たちについて行った 。