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第三話 かぐや姫

 決め台詞を言った直後。火薬の爆ぜる音。

 額に軽い衝撃があった。転がる鉄の玉。

 とりあえず台詞は言い切れたので良しとするが、ちょっとせっかちすぎる。これだから今時の若者は。


「ば、化け物め……! 銃が効かないぞ!」


 男たちはどよめき、後ずさる。はい減点、恋人を恐れる男がどこにいる。あと出会ってから一回も可愛いって言わないし。減点減点減点。


「はあ。仕方ないから追試をしてあげるわ。私を倒せたら、合格にしてあげる」


 後ろに立った灰色の目の男が目をかっぴらいて私を見ている。大丈夫、きみは追試ないから。本試で十分だから。


「かかっておいで、人間たち。どうして千年君たちが私を殺せなかったのか、おしえてあげよう」


 蹂躙。

 私はこの言葉が嫌いである。だって、当たり前のことなのに、大層な画数必要なんだもん。あと字面可愛くないし。

 人は私に勝てない。月に手が届かないことを嘆くなんて馬鹿な人間、いないでしょう。


「熊にでもあげようかなー。村まで送ってくのも癪だしなあー」


 積み上がった男たちの体を見ながら頭を悩ませる。もちろん殺してない。デコピンしただけ。だって君に野蛮な女って思われたくないからね。


「ねえ、君はどっちがいいと」


 思う?

 そう聞く前に、目の前が鈍く銀色に染まった。

 ぱっと、紅が舞う。


「……え?」

「……」


 虚な灰色の目は、鋭く細まり、薄い唇からは興奮したような荒い息が溢れている。刀を構えて、こちらを見据えて。

 君は、私の首筋に一つ傷をつけた。


「えっ、えっ? な、なんで? ご、ごめん、やだった? この人たち倒したの、やだった? 女の子らしくなかった? 嫌いに……なった?」

「……いや」


 男は苦しそうに声を絞り出すと、ぎりとこちらまで音が聞こえるほど強くて歯を食いしばった。


「……胸が、はち切れそうなんだ。ドキドキする」

「そ、それって……好きってこと?」

「いや」


 何かが割れるような音が胸の奥で聞こえた。嘘。だって、だってだってだって。


「ずっと、あんたの隣にいるとドキドキした。血が巡って気が昂って、離れたくなくてたまらなかった」

「それって好きってことじゃん!」

「いや、今わかった。これは、違う。俺の中には、これしか無かったんだ」


 なにやら男が肩で息をしながら話し始めた。どうやらコイツの身の上話らしいということはわかるが、もう興味もなかった。だって、私のこと好きじゃないらしいし。


「俺は、元々とある化け物を倒すためにつくられた一族の、最後の1人だ。何代も交配を繰り返してできた、完成品ってやつだ。だから、俺は、一族の最後の1人になった」

「ふーん」

「……それで、俺は去年その化け物を倒した」

「あえ!? その化け物って私のことじゃないの!?」

「は?」


 しまった興味ないのに思わず声を出してしまった。興味ない興味ない、私のこと好きじゃない男なんて。


「いや。俺は龍を殺したんだ」

「ふ、ふーん」


 やるじゃん。アレ、人の手には余る化け物でしょうに。まあ、私の方が強いけど。だって私、地球産の生き物には負けないし。


「それで、俺はもう、終わった。殺すために生まれて、殺し終わった。だから、もう終わりのはずだった」

「……ふーん」

「でも、なぜか死ななかった。俺の存在意義はもうないのに」

「……ちょっと、話長いんだけど。結局なに、なんで私のこと好きじゃないの」


 男は、荒い呼吸を飲み込みながら。


「村人にお前を殺せと頼まれた。化け物殺しだけが俺の存在意義だから、殺しに行った。勝てなかった。興奮した。そしてその昂りと殺意をお前への恋心だと勘違いした」

「……サイテー!!」


 男の頬を叩いてやろうと手を上げれば、また男が刃を抜いた。

 すぱん、と私の手首が切れて血が流れる。


「……ん?」

「今、気がついた。あんたを、殺したくて殺したくて、たまらない。それさえできれば、俺は、本当に、終われる」

「まってまってねえ待って。なんで君、私のこと切れてるの? 私、物理攻撃効かないはずなんだけど」

「気合い」


 その言葉とともに、また男の刃がこちらへ向かう。今度は頬が切れた。もちろんすぐに治る。治るの、だが。


「……しんっじられない! 姫の顔傷つけるなんて! 1番美しいのに!」


 男の刀をへし折ってやろうと手を伸ばす。今度は、腕が切れた。当然、着ていた着物も。


 おっけー。許さないから。


「食ってやるからな、人間」

「……」


 1秒でカタがつくはずだった。だって私は強いし、人間は弱い。私は地上の何より強い。地上のものは、私を傷つけらない。しかし。


「このっ! ちょこまかと!」


 そういえばこの男は足が早いのだった。私が何かする前に切りつけて、もう次の場所へ移っている。

 イラつく、イラつくイラつく!


「なんでよ! なんで!」

「……」

「……おまえから、好きって言ったんじゃないか。永遠の愛を証明したじゃないか」


 ぽろり、と涙が溢れた。もう知らない。どうでもいい。


「わ、私、はじめてだったんだからね。はじめて、好きになっても、いいかもって。君のことなら、永遠に覚えてたいなって、思ったのに。君がエターナルラブポイント貯めてったのに!」

「えた?」

「うるさい! だったらはじめっから近づくな! 有限の物をよこすな! 私のはじめては、永遠に君になっちゃったんだから! 素敵な恋にするはずだったのに!」


 恋なんてしなきゃよかった。私は可愛いだけでよかった。大事にされるだけでよかった。私も好きとか、何かしてあげたいとか、受け入れて欲しいとか、思わなきゃよかった。

 だって、拒否されたら、こんなに悲しい。私の何かは永遠に欠けてしまった。私は一生、永遠に、悲しい。


「……大っ嫌い。どっか行け、もう顔も見たくない!」

「……いや、俺あんたを殺したくて」

「ム!リ! 殺せない!」

「殺せる。だって、俺はそのためだけに生まれて」


 こんどこそ男の頬を引っ叩いた。油断するなばか。


「私はあんたが好きだから殺されてあげてもいいけど! あんたは私を殺せない!! 人間は月に手が届かないの!」

「……じゃあ、俺は、失敗作か。俺たちの家は、ずっと、失敗してたのか」


 男が、ぽつりと言って肩を落とした。なぁにを言ってるんだこの矮小生物。


「食うぞ人間。私に傷をつけたこと、誇るならまだしも嘆くとは。無知と傲慢も大概にしろ」


 私のプリティな犬歯を見せてやれば、男はきょとんと目を丸くした。ふん、恐れ入ったのね。


「……化け物だな、あんた」


 ふ、と男が頬を緩めた。目尻にしわができる。ふん、恐れ入っ、なによ、なによその顔。


「……なあ。俺の殺意を、恋心ってことにしないか?」

「はえ?」

「俺はこの気持ちを、恋と名づけるんだ。一年共に飯を食い、庭を愛で、隣で過ごした。それでも続くこの気持ちに恋と名づけたんだ」

「いやだってそれ殺意って君が」


 男が刀をしまった。

 私の隣に歩いてくる。そして、片方の袖がない私の両手を取った。


「ごほん。かぐやさん、俺はあなたが好きだ!」

「嘘ついた! きみ嘘ついたね! 殺したいだけのくせに!」

「あなたのためなら西洋の呪術でも不死の妙薬でも飲んで永遠を生きたっていい!」

「え……」


 どうしよう、エターナルラブポイントが、ラブポイントが。こんな嘘八百男に。


「だからいつか、君を殺させてくれ。俺はもう、そのことしか考えられない」

「減点減点減点! 最低点だよ!! 結局私の強さとか人外さとかしか見てないじゃん! 好きじゃないじゃんそれ!殺意じゃん!」

「君を殺せば俺も終わるから。2人で終わろう。これが俺の愛だ」


 男がグイッと私の腰に手をやって引き寄せた。男の顔を、間近で見上げる。見下ろされる。


「だから、かぐやさん」

「……はい」

「きみの、永遠の初恋、俺にください」


 何、愛の告白が、殺害予告って。

 私の初恋は、もっとロマンチックで、大事にされて、永遠に忘れられないような、そんな素敵な恋にするの。絶対、だって私、永遠に1人で、ここで生きていかなきゃいけないから。素敵な思い出が欲しくて。

 だから。

 

「……ちゃ、ちゃんと殺してよね。私、また1人になったら全然地球とか滅ぼすわよ」

「正直地球とかはどうでもいいっすけど、ちゃんと殺してあげます。かぐやさんの初恋も終わりの恋も、俺のものっすから」


 そっと、男の首に腕を回した。はじめて、人と抱き合った。これでもう、私は戻れない。人の温もりを知らぬ日には、戻れない。

 男の耳元で、飴を転がすように囁いた。


「ねえ。月は、綺麗よね?」

「え? 今夜くもりっすよかぐやさん」

「この! あんぽんたん!!」


 月が綺麗なのは君のためだってば!


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