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第二話 エターナルラブテストというものありけり

「ねーえ? 今って将軍誰なんだっけ? 君、武士じゃないでしょ」

「徳川も武士も終わったっす」

「はぁー。人間って忙しいわねー」


 庭に敷かれた布の上に座りながら、男がとんでもない音を立てながら我が家を破壊する様子を眺める。私への愛の証明にこのボロ家を建て直してくれるらしい。もしかして大工さんか。


「君はさあ、なんで私のこと好きになったの? この美貌?」

「うっす!」


 正直モノかよ。でも好きなのが見た目だけってのは永遠の愛ではない。私は永遠に美しいとは言え、人の見た目は移ろい行くものだからね。はい減点。


「かぐやさんお綺麗っす! それと、俺より強い人、はじめて見たんで。惚れたっす」

「人じゃないけどね」

「っす。それでも好きっす」


 ふぅん。久しぶりに素直に好きだとか言われるのも悪くないわね。私のこと全く怖がってないし。ラブポイント復活。もっと言って。


「かぐやさんはなんでこんな山奥に1人でいるんすか? 街にでも居たらすぐ貴族のお嫁さんになれるんじゃないっすか?」

「なんで私から行かなきゃいけないのよ。私が好きなんだったらここまでくればいいじゃない」

「確かにそうっすね」


 私の拗らせ具合にひかないその姿勢、ラブポイントプラスです。しかし心配度は上がりました。君、変な女に捕まるタイプだね?


「かぐやさんって、人間の男と恋人になれるんすか?」

「どういうこと?」

「違う生き物じゃないっすか。同じ種族同士で恋愛するもんじゃないんすか」

「私とおんなじ生き物なんてここにはいないの。ていうか、私人間が好きだから。恋をするなら人とがいいの」

「うっす!!」


 男はまた腹の底から声を出して、どんと金槌一振りで私の千年の棲家を完全に破壊した。


 それから、男が新しい家をつくる間に、私は男のエターナルラブポイントを計るべく様々なテストをした。実際にはワガママを言っただけなのだが、その裏に隠れた要求に応えられるか、こっそりチェックしていたのだ。


 要求1:美味しいものを食べさせて


「お腹すいたなー!」

「かぐやさん、ひとつ先の峠まで行って団子買ってきました。これここらで1番美味いやつっす」

「えっ! 私お団子大好き。なんで知ってたの?」

「たまたまっす。当たって良かった」

 この日、男は足が早いことと、笑うと目尻がしわしわになることを知った。団子の味は覚えてない。


 要求2:今どきの贈り物を頂戴


「今って何が流行ってるのかなー!?」

「かぐやさん、この布、都会で最先端の柄らしいっす。自分、これであなたのために1着拵えます」

「きみが!? 縫うの!?」

「うっす」

 この日、男が器用だと知った。あと意外とベタな女の服の趣味をしていることも知った。ふぅん、こう言うのが好きなんだ。ふぅん。


 要求3:かまって


「お庭が寂しーい」

「とりあえず知りうる限りの花植えました。あと池作っときました。鯉も放っときました」

「まってまってまって、造園が早すぎる。楽しく2人で土いじりがしたかっただけなのに!」

「かぐやさんをドロで汚すなんて考えられないっす」

 しかし流石に男の仕事が完璧すぎて文句も言えなかった。お庭綺麗。お花も木もいっぱいで向こう百年は寂しくなんてなさそう。うん。


 要求4:ほめて


「て、手料理作っちゃおっかなー……」

「自分作っときました。出来上がったものがこちらになります」

「ぎゅ、牛鍋……!!これが流行りの!」

 うまし。いや違くて、私が食べたかったっていうより、喜んで欲しかったっていうか。だって君、すごい私のこと好きだから。もうわかったから、もう。でもここからどうしたらいいか、わかんないって言うか。


 要求5:君がいないときどうすればいいのか教えて


「……寂しい」

「かぐやさん、喋り相手捕まえてきました。コイツ俺より長生きしますよ」

『くわーーーー!!!』

「そのカッパどこから捕まえてきたの!? かえしてきなさい! めっ!」

 カッパは激怒していた。仕方ないからテスト落第中の君の尻子玉は守っておいてあげた。でもほんと、不合格だよ、きみ。



 そんなこんなしていたらいつのまにか家が建っていた。前の家より随分とこじんまりとした、ピカピカの家。これが、私への愛の証明らしい。


「……ねえ」

「うっす」

「……なんで私のこと嫌いにならないの。ワガママばっかで、何もしなくて、化け物じゃん。こんな女絶対嫌じゃん!」


 新居の居間に座る男の膝で号泣した。安い着物の生地は皮膚に痛いし、土みたいな匂いがした。


「俺、かぐやさんの隣にいると心臓はちきれそうっす。好きっす」

「嘘。絶対めんどくさいと思ってる。今絶対思った」

「まあ多少は」

「ひどーーーい!!」


 手足をばたつかせて泣いた。姫とか知るか悲しいんだい。


「私が、君より強くなくて、美しくなかったら、君は私のこと好きじゃないんでしょ!」

「はい」

「ひどーーーい!!」

「でも、そんなのかぐやさんじゃないんで」


 こいつ趣味悪い。化け物が好きとか信じられない。私のことが好きとか絶対嘘。絶対途中ですてられる。絶対私より先に死ぬ。


「……せ、西洋の秘術とか、探しにいこ……永遠の命手に入れてよぉ……」

「無理っす」

「私と永遠に一緒にいたくないのーー!!??」

「いたいっす」


 なんなのコイツ、こいつこいつこいつ!

 私、ただ永遠に大事にしていられるような、綺麗な初恋がしたかっただけなのに。こんなにジタバタさせないでよ。可愛くなくなっちゃう。


「……もう、おまえを喰って腹の中で一つにしてしまおうかな」

「人外っすね」

「ひどーーーい!! 可愛いって言ってよおー!!」


 もういいやい。

 人外らしく、おまえのこと永遠に思ってやるからな。逃げられると思うなよ。

 そう思って、男の頬を撫でようと手を伸ばしたとき。


「出てこい化け物! おまえのせいで村人が何人も死んだぞ!!」


 知らない男の声と共に、家の戸が蹴破られた。

 ドタドタと、土足で家に上がり込んでくる男ども。10人を超える男たちはみな、西洋の服を着ていた。


「化け物め! 今日こそ成敗してくれる!」


 見知らぬ男が、剣を抜いた。


 私の隣にいる男が立ち上がって刀に手をやったが、それを制して立ち上がった。私の愛の城に土足で踏み込んだこと、化け物呼ばわり、まあその他色々マイナスポイントだが、私は来客にはこう言うと決めてある。


「永遠の愛を証明してみせなさい! そしたら、私の……かぐや姫の、永遠の初恋をあげる!」


 ぱんっ、と。

 火薬の爆ぜる音がした。


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