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コメディー短編(異世界恋愛)

婚約破棄は愛の形 ~拳と筋肉を添えて~

作者: 多田 笑

別ジャンルで投稿した作品をコメディー化したものです。お楽しみいただけたら、嬉しいです。


因みに、シリアスなものは、こちら↓

「婚約破棄は愛の形」https://ncode.syosetu.com/n9033kj/

「リディア・エルフォード。本日をもって、君との婚約を破棄する」


王国一武闘会の最中、第二王子レオニスはそう告げた。

それは、彼からリディアへの「宣戦布告」だった。


リディアは微笑みを崩さなかった。

格闘家としての誇りが、それを許さなかったからだ。


「……理由を、お聞かせ願えますか?」


「他に想い人ができた。それだけだ」


その場の空気が凍りついた。

なぜなら、レオニスが氷魔法エターナルブリザードを唱えたからである。


(そんなはずがない……。レオニス様は、自分より強い者しか好きにならない。この王国で最も強いのは、私よ! なのに……なぜ!?)


心の中で叫びながらも、リディアは静かに一礼し、その場を去った。


涙は流さなかった。

泣くのは、「ガチャで同じものを引いたときだけ」と、心に決めていたから……。



リディアは王宮を去り、修行の旅に出ようとした。

しかし、多くの人々に引き止められ、王都から最も遠い地でひっそりと修行をすることにした。


使用人たちは婚約破棄について何も尋ねず、話題にも触れなかった。

むしろ「ざまぁ」と思っている者もいた。それが、彼女には何よりも辛かった。


日々は、正拳突きの修行と、使用人たちとの模擬戦に費やされた。

拳を磨くたび、王宮での戦いの記憶が蘇る……。



ある日、噂好きのメイドが湯気立つラーメンスープを運びながら話し出した。


「お嬢様、ご存じですか? レオニス王子、ご体調が優れないとか……」


リディアは、ラーメンスープを飲む手を止めた。なぜなら、リディアは猫舌だったからだ。


「体調……?」


「ええ、公務も休みがちで、ずいぶんお痩せになられたそうです。毎日の食事に毒でも盛られているのでは、と噂されておりますの」


「そんな話、どこで……?」


「王都の薬屋が、珍しい毒薬を王城に届けたとか。それに、青酸カリだけでなく、国外からヒ素も取り寄せられたとか……」


(まさか……。でも、レオニス様なら毒に気づかないはずがない。 あのときの瞳……寂しげだった。きっと、私を巻き込まないように……!)


手紙を出すこともできた。けれど……


「今すぐ、王都に向かうわ!」


彼女は自分の目で、耳で、真実を確めたかった。



リディアは馬車に飛び乗り、自ら御者台に立った。 使用人たちは、どこか清々した様子で彼女を見送った。


王都への道のりは、暖かな日差しとは裏腹に、困難に満ちていた。


最初の難題は、馬車の故障だった。


「……チッ。車輪が外れた……。修理には数時間かかる。 仕方ない、走って行きましょう!」


彼女は馬を抱え、100mを9秒台で走り出した。


草をかき分け、獣道を抜ける。

やがて灰色の分厚い雲が太陽を覆い、辺りが薄暗くなった。


(魔物の気配……)


「パトリシア、隠れてなさい!」


彼女が馬のパトリシアにそう言うと、数十体の魔物が現れた。

だが……


「マッスル旋風脚!」


一撃で魔物たちは吹き飛んだ。


(こんな雑魚相手にしてる暇はない……! レオニス様のもとへ急がなきゃ)



雨が降り出す。ぬかるむ地面。泥で裾は重くなる。

そのとき、足を滑らせて倒れ込んだ……


「大丈夫ですか、お嬢さん!」


薬草採取に来ていた青年が声をかけてきた。


「……お前は……王国一の格闘家、リディア!」


「……はい」


「フッ……こんなところで会うとは。俺は王宮四天王の一人、ディラン・クロフォード。格闘家の端くれとして、手合わせ願おう!」


(今は戦ってる場合じゃないのに……!)


リディアは構える。

先に動いたのは、ディランだった。


拳が顔面を狙った。しかしリディアはそれをかわし、腕を掴んで……


「マッスル一本背負い!」


ディランは叩きつけられ、気絶した。



その後、リディアは、村の入り口で倒れている少年を見つけた。 彼女は少年を背負い、村の中に入ろうとした……。

しかし、それは罠だった。


「かかったな。僕は王宮四天王の一人、セシル・ルミナール。 重力魔法グラビティでお前を潰してやる!」


少年の姿のまま体重を十倍にするセシル。


だが……


「甘いわよ。私の筋肉に、その重さは効かないわ!」


リディアは彼の両足をつかみ、ジャイアントスイングで森の彼方へ投げ飛ばした。



さらに、犬を三頭引き連れた女が現れた。


「私は王宮四天王、レイナ・ヴァルグレア。仲間たちの仇、取らせてもらうわ!」


三頭の犬が襲いかかるが、リディアはビーフジャーキーで買収した。


「く、やるな……。私の犬たちを手懐けるとは……。しかし、私はそうはいかないわ!」


レイナはそう言うと、野獣の姿に変身した。リディアは、彼女にも同じくジャーキーを投げつけた。


「くっ、美味しい……。ちょっとズルいわね……!」



そしてついに、王都の門が見えた。


「リディア・エルフォードです。レオニス王子に会わせてください!」


衛兵たちは警戒するが、現れた隊長が彼女を保証した。しかし……


「私を倒してからにしてもらおう。王宮四天王の一人、グラディウス・アーセインだ!」


剣を抜いて襲いかかるグラディウスを、リディアは一発の正拳突きで撃破した。



王宮に到着したリディアは、レオニスのもとへ。


そこには、痩せこけた顔の王子がいた。


「……どうして、来たんだ」


「あなたが毒に侵されていると聞いたの」


「……来なくてよかったのに。 これは、自分の魔力を高めるための毒だ」


「なぜ言ってくれなかったの? 私たちは婚約していたのに!」


「王国最強は、僕なんだ! 君を遠ざけたかった……!」


(あれ? 優しさから遠ざけたんじゃなかったの……?)


「凍りつけ、エターナルブリザード!!」


部屋中に冷気が渦巻く。しかし……


「マッスルヒート!!」


叫んだ瞬間、彼女の全身から蒸気のような気迫が立ち上った。筋肉が一気に膨張し、熱気が吹き荒れる。


冷気と熱気が衝突し、部屋の空間が歪んだ。


「な、なんだと……!? 僕のエターナルブリザードが……溶けている……だと……!?」


レオニスの放った魔法は、リディアの圧倒的な体温と闘気によって次第に押し返され、ついには跡形もなく霧散した。魔力の嵐は止まり、静寂が訪れた。


「私はあなたと戦うために来たんじゃない。守るために来たのよ!」


リディアは彼を強く抱きしめた。


レオニスは、自分の弱さを告白した。


「君がそばにいると、僕はただの男に思えて……それが怖かったんだ」


リディアは微笑み、彼の手を取った。


「ただの男でいいじゃない。私があなたを守る。二人で、最強になればいいのよ」


「……そんな風に、考えたことなかった」


「じゃあ、今から一緒に考えていきましょう。あと、筋トレもしましょう」


「な、なんで筋トレ……?」


「最強カップルには、最強の筋肉が必要なの!」


「……ありがとう、リディア。君の言っていることは理解できないけど、僕が浅はかだったよ……。もっと、君を頼るべきだった」


レオニスはそう言うと、リディアを真剣な目で見つめた。


「もう一度、僕とやり直してくれるかい? でも、腹筋は……ゆるめで……」


「婚約破棄、撤回ね? 勿論よ。ついでに、この場で再プロポーズ、お願い」


「今!?」


「今じゃなきゃイヤ!」


レオニスは片膝をつき、叫んだ。


「リディア・エルフォード。僕と婚約してくれ!」


「はい! では、これが新しい愛の証……」


彼女は懐から、トレーニング表を取り出した。


「ちょ、ちょっと待って!? これが返事!? しかも、このトレーニングメニューは拷問じゃない!?」


「違うわ、これは愛よ。レオニス様…… 最強になるには、必要なことなの! 早速、トレーニングを始めましょう!!」


リディアがにっこりと笑うと、背後で「ゴゴゴゴ……」という謎の効果音が鳴った気がした。


「ひ、ヒィィイ!! 婚約者に擬音がつくの怖すぎない!? ねえ、リディア!? せめてウォーミングアップからにしない!?」


「腕立て300回がウォーミングアップよ?」


「こ、この婚約……取り消したままにしておけば良かったかも……」


「え?」


「な、なんでもない!! うれしいです! 最高にうれしいです!!」


その日から、王宮の一角では毎朝「ワン! ツー! スリー! マッスルー!」と謎の掛け声が響くようになったという。


王子と最強の格闘家による、「筋肉と愛の物語」は、これからが本番である。



(あれ? 何か、忘れているような……。)


その頃……

パトリシアは、最強の競走馬として、競馬界に鮮烈なデビューを果たしていた……。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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