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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第六章 悪役令嬢の夏休み

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【ライオネル】あなたに会いたくて 1

 学園が夏休みに入ったことで、特別講師としての仕事は減った。しかし、それでも学園に足を運ぶ機会は多い。学園祭で披露される剣舞の指導を任されているからだ。

 エリューシア学園の生徒たちは身分の違いを超え、最高の舞台を作り上げようと熱意を燃やしている。その姿勢は、見ていて清々しいものがある。


 そして今日は、剣舞の指導に加えてリナ殿の個別指導もある。きっと、“彼女”もリナ殿と一緒に来てくれるだろう。


 俺は、そんな期待を抱いている自分に苦笑した。もしここに団長がいたら、間違いなく全力でからかわれていただろう。


 だが、最近城の上層部が妙に慌ただしい。

 城の中枢を支えるヴィンセント団長も、何やらブツブツと愚痴をこぼしながら宰相閣下の呼び出しに応じている。その頻度は明らかに異常で、何か良からぬことが起こっているのかもしれない。


 肌で感じる嫌な気配。

 このざわつく空気が、ただの気のせいで終わればいいのだが──


「ライオネル先生、こんにちは!」


 明るい声が、思考を現実へと引き戻した。リナ殿の声だ。

 俺は顔を上げ、声の方向へ視線を向け──そして、動きを止めた。


 そこには、いつもリナ殿の隣にいる”彼女”の姿がなく、代わりに”彼女”によく似た面差しの少女が立っていた。


 艷やかな漆黒の髪に、引き込まれるような紫紺の瞳。

 まるでクラリス殿をそのまま小さくしたような容姿に、俺は言葉を失う。


「えっと……この子は……?」


 困惑しながら、その少女をまじまじと見つめる。

 リナ殿と手を繋いでいた少女は、俺の前に進み出ると、ゆっくりとスカートの裾をつまみ、上品に淑女の礼を取った。


 そして、少し緊張した様子で、けれど誇り高く、はっきりと名乗る。


「クラリス・エヴァレットです。はじめまして、ごきげんよう」


 ──……え?


 俺は情けなくも、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。


「実は、クラリス様が小さくなってしまって、クラリスちゃんになってしまったんです!」


 ──まったく意味がわからない。


 リナ殿の説明を聞きながら、脳内で必死に状況を整理する。

 どうやら図書館で見つけた紙に魔法陣が描かれており、それが発動した結果、クラリス殿が子供になってしまったらしい。さらに、今の彼女は子供の頃の記憶しかないという。


 ──これだから魔術というのは厄介だ……


 俺は剣術の特待生としてエリューシア学園に在学していたが、平民上がりのため魔術の才能はない。筆記試験は受けていたものの、実技は免除されていた。

 同級生たちが火や水を意のままに操るのを見て、貴族と平民の間にある絶対的な壁を痛感したものだ。


 騎士団に入ってからも、魔術師団と合同訓練をする機会があるが、大規模な魔法陣を用いた魔術など、敵に回せば恐ろしいとしか言いようがない。

 個の力では、到底抗えないものだ。


 そんな魔術の力に翻弄され、クラリス殿は子供になってしまったのか──


「クラリス殿は……元に戻れるのでしょうか?」

「今、ゼノ先生が調べてくれています。その間、私はクラリスちゃんのお世話をすることになっています!」


 なぜか誇らしげに胸を張るリナ殿に、俺は苦笑した。

 ゼノ先生なら、きっとどうにかしてくれるだろう。俺たちが不安げな顔をしていたら、この小さなクラリス殿まで不安になってしまう。


 興味深そうにこちらを見上げる彼女は、いつものクラリス殿とは違い、表情が豊かだった。その無垢な瞳を見て、俺は今は亡き弟の幼い頃を思い出し、少し胸が痛む。


 そうだ。今は、彼女が安心できるように、俺にもできることをしよう。


「ではリナ殿、今日の剣術の訓練はやめにして、クラリス殿をもっと落ち着ける場所に──」

「──いけません!」


 鋭く響いた声に、思わず口をつぐむ。


 リナ殿ではない。

 声の主は──足元にいた。


 小さなクラリス殿が腰に手を当て、俺たちを真剣な眼差しで見上げている。


「ク、クラリス殿?」


 何がいけないのか理解できず、戸惑いながら彼女の名を呼ぶ。


「訓練をやめるなんて、とんでもありません! リナはこれから訓練だったのでしょう? わたくしのせいでリナの成長がさまたげられるのは、ゆるしがたいことです!」


 ──言葉は間違いなくクラリス殿のもの。


 だが、普段とは違い、感情豊かで、しかもどこか舌っ足らずだった。


「か、可愛い……!」


 隣でリナ殿が両手で口を押さえ、感動に打ち震えている。

 その反応もどうかと思うが──確かに可愛い。

 まるで、クラリス殿の幼少期を目の当たりにしているようで、俺も思わず感慨にふけってしまった。


 だが、このままでは妙な空気になってしまう。

 俺は気を取り直し、真面目な顔で彼女に向き合う。


「……そうですね。では、訓練を始めましょう」


 小さなクラリス殿の前に跪き、そっと手を差し出す。


「俺はライオネル・アッシュフォードです。俺と一緒に、ここで大人しく待っていてくれますか?」


 彼女は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、俺と差し出された手を交互に見つめる。


 そして──満面の笑みを浮かべ、小さな手を重ねてくれた。


次回はあの人が乱入します。

5/23(金) 19:00更新予定です。


X(旧Twitter)では更新連絡やイラストの投稿もしています。

今回はライオネルの手を取るクラリス(幼女)のイラストです!

https://x.com/kan_poko_novel

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