【ゼノ】厄介な相手
まったく、厄介な相手に絡まれたものだ。
私は目の前の旧友を眺めながら、嘆息を漏らした。
「ゼノ、なぜ邪魔をするんだ? せっかく彼女を魔術師団に勧誘する絶好の機会だったのに」
「……無理強いをするものではないよ」
卒業から十年以上が経つというのに、まったく中身の変わらない元同級生には、もはや苦笑しか浮かばない。
シリル・アルヴァレス──宮廷魔術師団の師団長であり、王国一の魔術師と謳われる男。だが、その異名に違わぬ実力とは裏腹に、彼の美学は常に独特だった。
「君が力を隠しているのは面白くないね。もっと美しく咲けばいいのに」
かつて、そう言っては私に絡み、懲りることなく魔術師団へ勧誘し続けてきた。私はいつも「君の美学には付き合いきれない」と軽く流していたが、それでもシリルが諦めることはなかった。
卒業後もその執着は変わらず、「君が魔術師団に入るときのために、副師団長の席は空けてある」と言い続けている。冗談なのか本気なのか、今も判然としない。現在、副師団長が不在なのはその通りだが、それは彼を補佐できる人材がいないせいだと思っている。
私が「王家の影」であることは知らないものの、ただの魔術師ではないことには、とうに気づいているのだろう。
「君が背負っているものはわからないけど、それを纏っている姿もまた美しい」
そう評したシリルの目は、どこまでも純粋だった。彼にとって「美」は何よりも尊いものなのだ。
──だからこそ厄介なのだが。
「クラリス嬢はアレクシス殿下の婚約者だ。いずれ王妃の座につく彼女が、魔術師団に入ることはないだろう」
「彼女が王妃になってしまうなんて、つまらないだろう!? せっかくの美しい花が、枯れてしまうではないか!」
──大変不敬なことを、大声でのたまうものだ。
シリルの放言に、周囲の者たちが驚いたようにこちらを窺う。しかし、発言の主が「黒薔薇の師団長」であることに気づくと、「またか」とばかりに興味を失い、すぐに視線を逸らしていった。
まったく、彼女も厄介な相手に目をつけられたものだ。とはいえ、本人がどう思っているかはともかく、あれだけの美貌と実力を持つクラリスが、シリルの目に留まらないはずがない。
「まぁ仕方ない。今日は、君との交友を深めることにしよう」
素早く思考を切り替え、今度は私を獲物と定めたシリルが、愉しげな笑みを浮かべる。
私は彼を抑えるように片手を上げ、冷静に告げた。
「あいにくだが、私も宰相との謁見があるので、これで失礼する」
「──ほう? 君が、宰相と?」
シリルの真紅の瞳が、興味深げに細められる。
一介の魔術教師にすぎない私が、宰相と謁見するなど、よほどの理由がなければありえない。それを理解しているシリルは、明らかに興味を引かれた様子だった。
「先日、学園の訓練区域で魔素濃度の一時的な上昇を観測してね。今日はその報告だよ」
「学園の訓練区域? あそこは魔術結界で濃度を一定に保っているはずだろう?」
「そうだね。そのとき現れた魔物は、高濃度の魔素によって凶暴化していたようだ。おそらく、長年魔素を蓄積し、それが暴走したのではないかというのが、学園としての公式見解だ」
私の説明に、シリルは胸元に挿した黒薔薇を指先で弄びながら、考え込む。
──当然、彼がこんな曖昧な結論で納得するはずがない。
彼は魔術師団の師団長であり、「封印の鍵」の存在を知る数少ない人物だ。すでにその思考の中で、私の言葉と自身の知識を結びつけようとしているのがわかる。答えに辿り着くのは時間の問題だろう。
「──では、私も宰相のところに同行しよう。大変興味深い案件のようだからな」
シリルは面白い獲物を見つけたかのように、唇で優雅な弧を描いた。その目が、まるで獲物を狙う猛禽類のように鋭く光る。
──想定通りだ。
私はゆっくりと口の端を上げる。
宰相には悪いが、この厄介な友人の相手は、彼に引き受けてもらうとしよう。
厄介な相手の押し付け合いです(笑)。
次回からは話を戻してアレクシス回へ。
果たして彼は、ヘタレ王子の汚名を返上できるのか──?
5/2(金) 19:00 更新予定です!
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以下の日程で更新予定です。
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