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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第五章 学園祭に向けて

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対策会議

 私が地図上に示した地点を興味深そうに眺めながら、ゼノは優雅に微笑んでいる。


「なるほど。これが『古代の神』の力が封印されている──”可能性がある”場所、というわけか」


 その言葉に、私は小さく頷いた。


 ゼノの研究室の机の上に広げられているのは、エルデンローゼ王国全土を描いた地図だ。その地図の上に、私は四つのチェスの駒を置いた。ゼノが愛用するチェスセットの駒であり、それぞれが東西南北の四方に配置され、王都を取り囲むような形を作っている。


 ルーク《城》の駒が置かれた北には、ノルヴァイン。エヴァレット家の分家が治める極寒の地で、氷に覆われた山岳地帯が特徴だ。魔石が豊富な地域である反面、他の資源は乏しく、住民たちは厳しい環境と共に生きている。


 ナイト《騎士》の駒が指す東には、ノクスウッドという広大な森林地帯が広がっている。魔素を帯びた自然が生い茂り、独特の生態系が存在するため、魔物も多く出現する危険な地域だ。冒険者たちが挑戦を続ける地としても知られる。


 キング《王》の駒は南のローザルディアを示している。ここは王家直轄地であり、王都に次ぐ大都市だ。肥沃な土地と温暖な気候に恵まれ、国全体の食糧供給を支える要所である。


 そして最後に、ビショップ《司教》の駒は西のグレイリーフを示している。荒涼とした岩山が広がるこの地には、古代遺跡が数多く点在している。未調査のエリアが多く残され、学者たちの間では謎に包まれた地域として有名だ。


 「古代の神」の力がどこに封印されているかは、ゲーム内で誰の個別ルートに入ったかによって変化する。


 北ならルーク。彼はエヴァレット家の分家がある地で、過去の自分と向き合い、本家の後継者としての覚悟を試される。


 東はライオネル。彼が家族を失った故郷で、剣術の師匠との再会を通じて、自らの未熟さや心の傷と直面し、それを乗り越えるための強さを得ようとする。


 南はアレクシス。彼が王太子としての試練を乗り越え、次期王としての覚悟を固める重要な地だ。


 そして、西は──


 ゼノの指が、ゆっくりとビショップの駒に触れた。


「ここは──私の母の実家がある場所だね」


 彼の声は穏やかだったが、その微笑みにはどこか影が差していた。私は一瞬言葉を失う。それに気づいたゼノが、口元を苦しそうに歪めた。


「……本当に、君はどこまで私のことを知っているんだろうね」


 催眠状態だったとき、私がどこまで暴露したのか、ゼノは結局教えてくれなかった。

 けれど、どうやら「古代の神」に関する情報の一部にしか触れていなかったようだ。黒歴史を掘り返されなくて本当に良かった。


 とはいえ、私はゼノに協力を要請した立場だ。この短い期間で、私たちは必要な情報を共有し、対策を講じなければならない。

 「古代の神」が現れるまで、残された時間は三ヶ月。長いようで、実際は一瞬で過ぎてしまうだろう。


 そのために、私は今、ゼノに私が共有できる情報を開示している。


「どこに『古代の神』が封印されているかは、現時点ではわかりません。ただ──おそらく、西はないのではないかと考えています」

「ふむ?」


 ゼノは再び地図を眺めると、唇に人差し指を当てて考え込んだ。私の推察の根拠について考えているのだろう。

 ただ、その答えが出てくるとは思えない。だって、それはつまり、「ゼノルートのフラグ回収に失敗したから」ということなのだから。御本人を前に言いづらい。


 しかし、考え終わったらしいゼノは、さらりと答えを口にした。


「もしかして、北がルーク君、東がライオネル先生、南がアレクシス殿下……かな?」

「──っ」


 あっさりと各地域と攻略キャラたちのつながりを言い当てられ、私は思わず息を呑む。

 私の反応に満足したように、ゼノは唇できれいな弧を描いた。


「なるほど。つまり、西の可能性が低いというのは……私がリナ君の相手役候補から外されてしまった、ということだね?」


 ──なんという洞察力。怖い、怖すぎる。


 私はあまりの衝撃に言葉が出てこない。もしかして私が話した? それとも、ただの推察? これだけの情報で、そこまでわかるものなの??


 私が反応できないでいると、ゼノは苦笑を浮かべた。その苦笑は、どこか楽しげで、同時に私を試しているようにも見える。


「簡単な話だよ。君はリナ君が絆の力で『封印の鍵』としての能力を発揮できると言った。そして、君は先程の三人とリナ君を近づけようとしている。さらに、この三地点は彼らに縁が深い場所だ」


 ゼノの理路整然とした説明に、私は内心で感心する。今までの私の行動と、彼が持っている情報を巧みに組み合わせて、彼は答えにたどり着いたのだ。


 ……まぁ、協力してもらう以上、隠しておくことでもないので、それで構わない。

 ただ、「あなたたちはリナの攻略キャラなのです」とまで説明するつもりはない。さすがにそんなことを口にするのは、羞恥心が勝る。


 私は観念して、恥ずかしくない範囲で補足することにした。


「……その通りです。わたくしが知る限り、リナと絆を結べるのは、アレクシス様、ライオネル様、ルーク、そしてゼノ先生──」


 私が彼の名を口にしたその瞬間、ゼノは先程まで自分の唇に当てていた人差し指を、軽く私の唇に触れさせた。

 突然の出来事に、私は思わず硬直する。


「ゼノ、でいいよ。二人きりのときは」


 彼の低く響く声と、穏やかだがどこか魅惑的な微笑みが、私の心臓を容赦なく撃ち抜く。


 ──全身の血が沸騰するかと思った。


 な、なんでそんな顔でそんなセリフを言えるの!? しかもこれ、間接キ──


 浮かびかけた言葉を必死で押しやり、考えないようにする。

 確かに私たちは今、研究室に二人きりだ。その事実が頭の中を駆け巡り、冷静さを保とうとする私の思考回路を無情にも停止させていく。


 だが、私はクラリス・エヴァレットだ。これくらいでたじろぐわけにはいかない。


「……ゼ、ゼノ」


 やっとのことで彼の名を呼ぶ。だが、どう考えてもエヴァレット家の威厳など微塵もない声色だった。それでも、口に出せたことだけは自分で褒めてあげたい。


 ゼノは満足そうに微笑み、私が彼の言葉に従ったことに満足したのか、そっと指を離してくれた。その動作すらも優雅で、余計に気を乱される。


 私は何事もなかったかのように装いながら、必死に平常心を取り戻そうと心の中で深呼吸を繰り返していた。

 ──全く、本当にこの男は油断ならない。


「……とにかく、リナが誰と絆を結ぶかによって、『古代の神』の封印されている場所がわかると思います。ゼノ先せ──ゼノは……おそらくリナを“そういう対象”としては見ていないでしょうから、あなたに関係の深い西は候補から外しました」


 私が説明を終えると、ゼノは「ふむ?」と首を傾げる。興味深そうに私の言葉を咀嚼しているようだった。


「必要であれば、“そういう対象”として彼女を扱うことは可能だけれど──」

「──やめてください」


 私は即座に却下した。

 何を言っているの、この人は。扱うって、一体リナに何をするつもりなの?


「感情を伴わない絆に意味はありません。それに、リナを傷つけるようなことは絶対に許しません」


 ゼノは私の言葉に、心外だとでも言いたげに肩をすくめる。だが、私の目を見て、冗談の線を越えるつもりはないらしいことを察したのだろう。


「残念だね……でも、そうなると、他の場所の可能性も考えておいたほうがいいかもしれないな」

「え?」


 彼の意外な提案に、私は思わず目を丸くする。その反応が予想外だったのか、今度はゼノのほうが少し驚いたようだった。


「だって……これらの場所は、リナ君がルーク君、ライオネル先生、アレクシス殿下のいずれかと絆を結んだ場合のものだろう?」

「はい」

「じゃあ、やはりどこも可能性が低いかもしれないね」


 ──わけがわからない。


 このゲームの攻略キャラは、アレクシス、ライオネル、ルーク、ゼノの四人だ。それがゲームの設定であり、少なくとも無課金プレイヤーはこの四人しか攻略できないはずだ。

 なのに、ゼノは「可能性が低い」と断言する。


 私がその理由を理解できず困惑していると、ゼノは少し困ったように笑った。それは、物覚えの悪い生徒をどう教えたものかと考える教師の顔に似ていた。


「……なんでわからないんだろうね?」


 その表情が、先日の劇の主役を決めるときにアレクシスが浮かべたそれと重なった。どちらもこちらを見透かしたような、含みのある表情。


 胸の奥にじわりと釈然としない気持ちが湧き上がる。だが、それを表に出すわけにもいかず、私はゼノの微笑に視線をそらすことしかできなかった。


カタカナで書くと同じなのでややこしいですが、ルークとルーク《城》は英語で書くとLukeとRookで異なります。


ルーク《城》は堅実で防御的な駒であり、縦横無尽に動ける力を持っています。

ルーク自身の(ああ見えて)堅実な性格や、エヴァレット家の後継者としての役割が「家を支える柱」として象徴されています。

また、彼の内に秘めた強さや成長のポテンシャルも、城のような揺るぎない存在感にぴったりと考え、ルークとルーク《城》を紐づけました。

他の攻略キャラは……そのままですね(笑)。


次回は4/11(金) 19:00更新予定です。

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