攻略キャラに会いに行こう 2
次に向かったのはゼノの研究室だ。
彼は学園内で魔術を教える教師であり、研究者としても一流だ。その存在は学生たちにとって尊敬の対象であり、時には畏怖の対象でもあった。私は静かに研究室に足を踏み入れ、扉を閉める。
ゼノは机に向かい、分厚い魔術書を読み込んでいた。無造作に縛られたワインレッドの長髪が窓から差し込む光を受けて柔らかに反射し、知的な表情が彼の魅力を際立たせている。手元には精緻な魔法陣が描かれた紙が広がり、指先が滑らかに動いて何かを書き込んでいる。その動作は無駄がなく、まるで踊るような優雅さがあった。
さすがこのゲームのお色気担当。無駄にエロい。
私は息を呑み、心の中で落ち着けと自分に言い聞かせた。顔には決して出さない──というか、この鉄仮面には出せないのだけれど。
「ゼノ先生、おはようございます」
彼は顔を上げ、眼鏡越しに静かなアメジストの瞳で私を捉えた。知性と異様な色気がその瞳には宿っており、視線が交差した瞬間、私の心拍は一気に跳ね上がったが、なんとかそれを押し殺す。
「おはよう、クラリス嬢。こんなに朝早く、どうしたのかな?」
私は彼の様子を窺いながら、ヒロインの名前を口にした。
「リナ・ハートについてですが」
「ふむ、今年の特待生だね」
ゼノは魔法陣に視線を戻しながら答えた。
やはりゼノも彼女を知っている。リナがこの学園に入学できたのは、魔術の才能を見込まれたからだ。魔術の教師であるゼノが彼女を知らないわけがない。
「彼女は魔術の才能を見込まれてこの学園に入学しましたが、元は平民です。貴族社会に慣れ、魔術の基礎を理解するには少々時間が必要かと思われます」
ゼノは興味を引かれたように眉を上げ、再び私を見た。
「……それで?」
「彼女には特別な指導が必要なのではないでしょうか」
私は知っている。魔術に不慣れなヒロインは特別授業を受けることになる。私の言う通り、彼女は魔術の初心者だ。そしてその特別授業を担当するのがゼノ。二人きりでの授業を通じて、彼らは少しずつ距離を縮めることになるのだ。ほうっておいてもそうなるはずだが、ここで一言入れておくのも悪くない。
「……なるほど、考えておこう」
ゼノの回答は煮え切らないが、今はそれで十分だ。私はホッと息を吐く。そんな私を、ゼノは興味深そうに眺めている。片肘をつき、手に頬を乗せながら、私を見上げてくる。
……色っぽい。お願いだから無駄に色気を振りまかないでほしい。心臓に悪い。
「君が彼女を気にかけているとは、少し意外だね」
ゼノの色香に惑わされないように、私は目を閉じて彼に背を向けた。これ以上ここにいたら、息苦しさで倒れてしまう。
「この栄誉あるエリューシア学園のレベルを下げないためです」
悪役令嬢らしい台詞を残し、私はその場を後にした。とりあえず、二人目にヒロインの存在を印象付けることはできた。あと一人。




